第11章 MEN豚目線2
いや、ジャンプしたら届くんじゃないか、と後ろ足に力を込めて頑張って跳ねてみるが高い。人間はこんな深い浴槽の中にいつも入っているのか。変な生き物だな。
にしても、いつまでもここにいるのはまずい。まだ朝早いから飼い主が起きて俺に気づくとは思えない。どうしたものかと考えていると、そうだ、色々持っていたからこれを足場にすればいいんだと思いつき、浴槽に布や木材の切れ端を散りばめた。
まず、布を浴槽の外へ放り投げ、重りになるように木材の切れ端も投げる。向こう側で床に垂れているだろう布の部分に木材の切れ端が乗るように調整して投げるのだ。
適当に投げているから全て上手くいくとは限らないが、布を軽く引いて重さがあるかどうか何度も確認し、よし、これで大丈夫だろうというタイミングで、俺は布をロープ代わりに浴槽をよじ登った。
「まぁ、これくらい楽勝ですねぇ」
浴槽の縁まで辿り着いて一人でそう呟いていると、またずるりと落下。今度は浴槽の外へと落ちたからいいが、そのはずみでどこかにぶつかって頭上から雨が降ってきた。
「え”っ」
驚いたのも束の間、頭上から降ってくる雨、否シャワーからの生温い水が俺を濡らした。
俺は、お喋りな飼い主が話していたことを思い出しながらシャワーを止めたが、これは完全に、俺がイタズラをしたように見える。まずいですって、これは。
とにかく、俺は脱衣所に出て濡れたパーカーを脱ごうとした。証拠隠滅しかない、なんて考えていたところ、一つの大きな影が俺を覆った。
「あれ、MEN……?」
終わった。これは怒られますねぇ、と俺はそこから動けずにいると、間もなく飼い主の両手が俺を抱えた。
「どうしたの、こんなに濡れて……あれ、お風呂の中が散らかってる」
いやぁ、それはですね、と言い訳をしたくても、こちらの言葉が通じる訳ではなさそうなので何も言えない。俺は飼い主の横顔をちらっと見た。
「まぁ、いっか」飼い主がこちらを向いた。「シャワー浴びたかったかな? 体洗おっか」
いや、違うんですけど!
俺が何か言ってもふごふごと鳴き声になるばかり。飼い主は俺を抱えて桶に入れ、その後はいつも通りのお風呂の手順。
……朝から風呂ってのも悪くないかもな。
俺は飼い主の優しい手と鼻歌にウトウトしながら、浴槽装飾作戦は、こうして幕を閉じた。
