第3章 上陸
船長室の前に来て、1人ハッとした。
両手塞がっててノックが出来ない……。
頭でノックしようかと考えたけど、いや、それはそれで頭から下も揺れて結果的に珈琲零れそう、と思い至り普通に声を掛けることにした。
「もしも〜し。ローくん、いますか〜?」
返事もなく扉が開いた。
「ローくん、ペンギンくんから預かってきたよ」
ミルクが入っていない、ローくん用の珈琲カップを見せると「ああ」とわたしの手からカップを受け取り、開けていた扉をより大きく開き、体を横にずらした。
「?」
「入らねェのか?」
「え?」
部屋の中に招くための行動だったんだ……
お言葉に甘えて船長室に足を踏み入れるも、座るところがない。応接室のようなソファやテーブルはなく、あるのはローくんのベッドとあのデスクと椅子だけ。その椅子には先程まで座っていたのだろう形跡がある。
ベッドに座るのもな…と、思っていると、よく見たら壁に設置されたような本棚の低い位置に座れそうなスペースがあるのを見つけた。
ローくんのデスクの斜め、ベッドがある方とは反対の位置。
そこに失礼する。座ると思ったよりスペースに余裕があり、カップも横に置けそう。
「別に部屋の中にお邪魔しようって訳じゃなかったんだよ」
「そうか」
せっかく淹れてもらった珈琲を猫舌だけど早く飲みたいという気持ちで行儀悪くも道中で飲もうと思って自分のも一緒に持っていただけだけれど……。
「なんで外套を着てる?」
自分の椅子に座ったローくんは珈琲をひとくち飲んで聞いてきた。
「ふふっ…肌寒くなってきたから」
ペンギンくんと同じことを言ってるなあ、とつい笑ってしまうとローくんは不思議そうな顔をした。
「外套以外無いのか」
ここまでペンギンくんと同じだと、やっぱり小さい時から一緒にいると思考回路が似てくるんだろうかと感心してくる。
「うん。でも今のところ寒いの耐えれるし大丈夫だよ。暑いのより平気」
次の島でたくさん買ってもらうみたいだし、と言うと「ああ、あれな。あの量、イッカクだろ」と笑いながら肩を竦めた。
ローくんはおもむろに席を立ち上がると、クローゼットを開けた(開けてからクローゼットだと気付いた)。