第5章 潜水艦と日常
シャチくんからコーヒーを受け取ったローくんは熱さを確かめる様に一度口の前でカップを止めると冷ますように少し息を吹きかけて飲んだ。
「…なんだ」
「へ?」
「そう見られてちゃ飲みにくい」
「あ、ごめん。熱くないのかなって思って…」
「あーリア、猫舌だもんな」
シャチくんも飲んだようで一息つきながら言う。
既にハートの海賊団のクルー内にはわたしがブラックで飲めないことが知れ渡っていて、シャチくんが用意してくれたわたしの分のコーヒーにはミルクが入っている。しかもちゃんと温めてくれたものだからまだわたしが飲むには熱い。
「今はまだコーヒーで温まる時間です」
カップに手を添えて温かさを堪能していると「火傷するなよ」とローくんが指の背で頬を撫でた。
その優しい手つきに頬と心がポッと熱が上がる。
そんなわたしを置いてローくんは自室へと戻って行った。
「……キャプテンってやっぱリアにめちゃくちゃ甘いよな」
「甘やかしてもらってる気はしていたけどやっぱりそうなの…?」
「甘やかすっていうか甘い。優しい。キャプテンもともとツンデレで優しいけどリアには特に甘いし優しい気がする」
ニヤニヤと笑うシャチくんは「それに前より『ありがとう』って言ってくれてる気がする」と嬉しそうにしていた。
「おれらはキャプテンが大好きだからどんな扱いを受けようとおれらがしたくてしてるから良いんだけど、やっぱお礼言われると尚更嬉しいもんだな」
「ふふ、そうだね」
「リアが来てからかもな。キャプテンが『ありがとう』って言ってくれるようになったの」
「そうなの?」
「リアがしょっちゅう『ありがとう』って言うからかな」
「『ありがとう』と『ごめんなさい』はちゃんと言うようにって言われてたから……ローくんがわたしにつられてるってこと?」
「かもな」
「それは…可愛すぎる……」
口を押さえてその可愛さを噛み締めていたわたしは「キャプテンの前で可愛いなんて言ったらどうなるこったか……」とシャチくんが呟いたのに気付かなかった。