第2章 出航
「これからいろんな島に行くんだ。書物でも探せばいい」
『これから』という言葉に胸がジンとした。これから。これからわたしはハートの海賊団と共に、いろんな島へ場所へ行けるんだ。もう1人じゃなくていいんだ。
一族のことがあるからと、能力があるから、どうせ長くは居られないと人付き合いを諦めなくていいことに心が震える。
「ふふ…楽しみ、だなあ」
きっと楽しいことだけじゃない。海賊だもの。辛いこと、しんどいこと、痛いこと…いろんなことがある。
「わたし、頑張るね」
「あ?何を?」
「いろんなこと。みんなの足でまといにならないようにいろんなこと、覚えるし、出来るようになる」
そういえばさっきこの部屋を見渡した時に本棚があって、たくさん本が並んでいた。ローくんの部屋だし、医学関係かな?
そういうのも読ませてもらおう。
「おやすみ、ローくん」
「…ああ」
2度寝から起きると、何故かわたしの頭の下にローくんの左腕が伸びていた。わたしのお腹まで掛かっている肌布団を右腕が抑えるようにしてわたしの腰あたりに乗っている。
その近さに心拍数が上がるように心臓が跳ねる。
起きている時は不敵に笑ったり、真一文字に結んだりする口が無防備に薄く開いていることで「あ、ちゃんと寝てる」と思わせる。
寝ているのを邪魔したくない気持ちと、普段は見れないようなそのあどけなさに頭を撫でたくなる。
起きないで、起きないで、と祈りつつ、ゆ〜っくり腕をその頭に伸ばす。
触れるか触れないかの力で撫でると、薄く開いていた口を低く唸るような声を出しながら閉じ、ズリ、とわたしに下敷きにされている左腕がわたしの頭を抱えるようにして、より距離が近くなる。
し、しまった…!
これじゃあ、起こさないようにベッドから出る難易度を上げてしまった…!!
オロオロと1人焦っていると、「ぁ゛?」と低音の疑問形を携えた声が聞こえた。
少し不機嫌そうに開いたその眼とカチリ、と視線が合わさった。
「ご、ごめんなさい…」
「……」
まだ寝惚けているのか、ぼーっとした眼のローくんに「あれ?まだ大丈夫?」と思って、再度頭を撫でてみる。
「…やめろ」
朝特有の掠れ気味の声にドキドキした。
通常時の声も低い方だとは思うけど、それよりも低く掠れた声は心臓に悪い(良い意味で?)。