第2章 出航
「ローくん、わたし、椅子で大丈夫だよ」
「駄目だ」
「自分だって椅子で寝てたじゃない」
「おれはいいんだ」
ベッドを背後に押し問答。手が離されたかと思えば、ローくんがしゃがみ、履いたばかりのわたしの靴を無理やり脱がしにかかる。
「ぉわッ!ちょっと、」
立ってる状態だというのに足首を掴んで靴を引っ張られてよろめき、思わずわたしより低い位置にある、ローくんの肩を両手で掴む。
「イタッ!」
それを好機と言わんばかりに肩でわたしの両手を押すから、身体がダル重ダル痛のわたしはみっともなく背中からベッドへとダイブした。
転がってる隙に早業で両靴とも脱がされた。
「詰めろ」
転がるわたしをベッドと平行になるように90度向きを変えさせ、壁側へと追いやる。そしてすかさず自分も隣に横になるという何もかもわたしよりも素早いローくん。
「……雑じゃない?」
「二日酔いはしてねェか?」
「うそ、話噛み合わせる気ない…」
ローくんは肩肘で頭を支えるようにしてわたしの方を向く。
あ、枕ひとつしかないから…
頭の下にある枕を半分、ローくんの方へ押し出しながら会話を合わせる。
「二日酔い…なのか分からないけど頭と身体がダル重でダル痛かな…。たぶん、念力の反動だと思うんだけど……」
押し出されてきた枕を訝しげに見るから、ポンポン、と頭を置いて、と示す。
「…今までもあったのか?」
わたしが示したことを理解してくれたようで、ローくんが枕へと頭をのせた。
あら、思ってたより近いな……。綺麗な顔が真正面にあるのはちょっと、いや、かなり照れる。
重い体を上に向けて、天井を見るように顔を真っ直ぐにする。
「今までは…ここまで使ったこと無かったから、せいぜいちょっと眠くなる程度だったかなあ。たぶん、わたしの念力は力を使う代償に眠くなったり、こうやって筋肉痛になったりするんだよね。念力なのに筋肉痛って……って思うけど」
「使い放題って訳じゃないんだな」
「ね。お父さんたちはどうだったかなあ……。他の一族の人と会えたらいいんだけど……」
色んな能力がいるんであれば、その代償もそれぞれ違うかもしれない。両親はどうだっただろうか。思い出そうとしても思い出せないことが多くなってきた。記憶が風化してる、そんな感じ。