第1章 初恋
お客さんの入りが落ち着いてきた頃、シャチモチーフという変わった帽子をかぶった男性が入ってきた。
17人という人数に少なからず驚いていると、その後ろから新聞でだけ見た覚えのある帽子が目に入り、しかもその人物と目が合うと、思わず固まってしまった。
あの頃より人相が悪くなっているけど、紛れもなくその人物はわたしが会いたいローくんだった。
「リアちゃん、あの人たち、クマも居るけど…海賊じゃないのかい?」
注文されたお酒をカウンターに置く女将さんが小声で聞いてきた。
「そうですけど…大丈夫、多分良い人達ですよ」
「席作るの手伝ってくれたから?」
「いえ、それだけじゃなくて…」と言いかけたところで「お姉さ〜ん!」と言う声に振り返ると、親しげにペンギンモチーフの帽子をかぶった男性がわたしの元へやって来た。
「もしかして、ソレ、おれらのお酒?」
「あ、はい」
「数多いからおれも運ぶよ」
ニカッと目元が見えないけど、人懐っこそうに笑う。
「じゃあ…お言葉に甘えて」
その人懐っこそうな笑顔にこちらも自然と笑顔になる。
その男性はわたしの返事を聞くと、一気に両手でそれぞれ5つずつジョッキを持った。
「えっ?!すごい…!」
思わず口に出すと、「へへっ」と笑いながら席へ運んでいく。
わたしは頑張っても両手でそれぞれ2つずつの計4つしか運べない。
「お、お待たせしましたっ」
わたしがテーブルへ置く頃には、ペンギン帽子の男性は残りの3つを取りに行ってくれていた。
ローくんは壁際のソファに座り、その左横には白いクマ…クマだよね…?と反対の右側にはシャチ帽子の男性、そしてその横に続くように運ぶのを手伝ってくれたペンギン帽子の男性が座る。
「お姉さん、ココの料理、全種類持ってきてもらうのって可能?」
シャチ帽子の男性がお店の壁に掲げられているメニューを指さしながら言う。
「お時間をもらえれば…」
「キャプテン、良いっすか??」
「…ああ」
キャプテン、という響きに思わずローくんを見てしまう。
やっぱり、ローくんだ…慕われてるんだなあ…。
なんとなく感動と共にホクホクとした気持ちになる。
おっと、いけない。勝手に感傷的になってきちゃう。
仕事しなきゃ。