第1章 初恋
体が大きい船員は船番で残してきてしまったが、そもそもの人数が多い。
果たして全員店に入ることが出来るか…と思案していると「ココっす!」とシャチがある店を指さす。
「入れるか聞いてみる!」
「入れなかったら店の外にはみ出していいかな」
「駄目だろ」
意気揚々とシャチが店のドアを開け、それをベポとペンギンが覗き込むようにしている間をおれが続く。
「すいまっせーん!17人なんですけどイケます〜?」
シャチが「いらっしゃいませ」と言う店員に呼びかけた。
「17人ですか?えっと…ちょっとお席を作るんでお待ち頂いても…?」
紺色のキャスケット帽をかぶった店員が店内を見回して、最後に出入口に立つおれ達の方を見た。
「っ!」
おれと目が合ったと思ったら、紺色のキャスケット帽をかぶった女が息を飲んだのが分かった。
そしてその目を見たおれも思わず息を飲んだ。
まるでこの星のように、森林の色、大地の色、海の色が混ざったような複雑でいて綺麗な色。
その目をおれは1人しか知らない。
それぞれがお互いを視認した時、一瞬時が止まったかのようだった。
口を開こうとしたその時、シャチとペンギンが「席作るの、おれらも手伝うよ」と申し出たことで、おれの言葉が口から出ることは無かった。
「お客様にそんなこと…」
キャスケット帽の女は2人の申し出に戸惑っているようだった。
「おれらが使うんだ。させてくれ」
ペンギン達に助け舟を出すように前へ出ると、女がピクリと肩を揺らした。
…やはりこの女は───────
「アタシたちも手伝うよ」
後ろにいたイッカク達も前へ出てくる。
「…そうですね…その方が早くご案内出来ますし…よろしくお願いします」
目尻を下げて優しく微笑むその表情に、やはり1人の人物を思い出す。
かつて同じ町に住んでいた、あの少女を。
……びっくりした。
今朝夢見た人物がお店に入ってくるんだもの。
まさか生きていると実感する日がやってくるなんて思ってなかった。
生きていればいずれは、と思ったことがない訳ではない。
それでも本当にまた出会えるなんて……。
今だって仕事中なのに夢見心地だ。