第2章 出航
「その状態で飲ませる医者がいるか」
「…わたしいま酔ってる…?」
「自覚ねェのか?」
ローくんの発言にやや遅れて気づいた。
わたしの今の状態、もしかして酔ってるのだろうか?
普段からお酒を飲むわけでもないし、飲みに誘われる事もなかったから今日飲んだお酒の量は過去最大である。
「いや…でもねむいだけ、、」
「それも酔ってるっつーんだよ」
まだ座ったままのわたしを置いて、ローくんが立ち上がった。
しかし立ち上がってすぐしゃがみ、腕をそれぞれわたしの脇と膝裏に差し込む。
一瞬の浮遊感のあとには、お姫様抱っこになっていた。
ああ、2度目だ、とぼんやりと考える。
「歩けるよ…」
「ハッ、無理だろ」
鼻で笑われた。
そのまま艦内へ歩き出すその揺れがまるで揺りかごのように気持ちいい。
酔ってる時に変に揺らされると吐き気がすると
思ってたけどそんなことないんだなあ。
頑張って持ち上げた瞼がどんどん下りてくる。
せめて、せめて少しでも重くないようにと瞼とともに重たく感じる両腕をローくんの首元へと巻き付けた。
話している途中で段々と言葉が途切れ途切れになり、ついには寝息を立て始めたリアの頭を自分に寄りかからせる。
グラスを持っていた手は見るからに力が抜けていたため、グラスを自分の方へと回収する。
ガヤガヤと騒ぐクルーを視界に入れたまま、カンファレンスルームでのことを思い出す。
おれが他言無用を言い渡した後に、リアは命の危険を感じたら迷わず話せと言った。
何を言ってるんだ、と理解できないと思ったのと同時に、これまで共にしてきたクルーの命を優先的に考えるリアに驚いた。
何故、たかが3日間の付き合いで自分のことより他人の身の安全を考えれるのか。ましてや自分が危険な目に遭った後に。
『何故か』は分からないが、そんなリアに感情が動いた。
自分が大切にするものを同じように大切にしてくれようとしているのが嬉しかったのだと、今なら分かる。
穏やかな寝息が心地よく、リアを自分にもたれさせたまま喧騒を眺めていると次第に夜風が冷たくなってきた。
リアが少し身震いをする。