第2章 出航
「ローくん」
遮ってきたのは真っ黒なコートのローくんだった。後ろからはみんながいる方の明かりが見えるけど、真っ黒なコートを着たローくんはまるで暗い海から出てきたかのようだった。
「1人で飲んでんのか?」
「うん。こんなに力使うのも、みんなでワイワイするのも初めてで、ちょっとね、クールダウン中」
ローくんはわたしの隣に同じように手摺を背もたれにして座った。
「悪いな、あいつらが」
「ううん。楽しいからそれは全然いいの」
ボーッとまだ楽しそうな声が聞こえる方を見る。
いつも見るだけの人生だったけど、さっきまでわたしはあそこにいたんだなあ。
「わたし、ここにいていいんだよね?」
「?ああ。だから誘拐したんだ」
「誘拐って言うけど……『仲間になった』っていう認識でいいのかな?」
何故かあくまで『誘拐』って言うローくん。たしかに勧誘はされてないけども。
「…仲間になった、でいいが、表向きは誘拐だ」
「表向き?」
コツ、とわたしが伸ばす足にローくんが伸ばした足を当ててきた。
「お前がハートの海賊団の一員になった、と表沙汰になったらどうなると思う」
「……どう、とは…?」
「懸賞金がつく」
その言葉にハッとする。今までわたしはバレないように生きてきて、あくまで一般人として暮らしてきた。
だからこそ、影で懸賞金がかけられていたとしても一部の人間しか知らない人物を大々的に探すようなことを海軍もしなかったのだとしたら。
海賊になる、ということは一族や能力のことを隠しても外見の特徴と『海賊だから』という理由だけで懸賞金をかけて大々的に公式に合法的にわたしを探せるということだ。
「誘拐ということにしておけば、お前はまだ一般人のままでいられる。そうすれば大義名分を持った海軍が追ってくることもそうないだろ」
なるほど、ローくんはそこまで考えてくれていたのか。
……でもそれはわたしの身の安全を考えてくれてるものだってことは分かるんだけど……命を守るべきなのは船員のみんなも同じはず。
海賊になることを選び、その時から常に命の危険があるみんなと、それを回避するために『誘拐された』ということにするわたしは同じ艦に乗ってていいのだろうか?それで仲間と言っていいのだろうか。