第2章 出航
「パンツだけよりマシでしょ」
イッカクちゃんも言っていた言葉を言うと、一瞬考えるようにして「…まぁな」と言った。
「フードもかぶっとけ」
言いながらわたしが借りているパーカーのフードを目深にかぶさせる。
そういえばわたしのキャスケット帽ってどこに行ったんだろう……
「わたしの帽子、見なかった?」
「……見てないな。落としたのか?」
「多分……女将さんたちといる時はかぶってたんだけど…その後…」
と言いかけたところで言葉が詰まった。
……その後、海賊たちに連れて行かれたときにどこかで落としたのだろう、と思い至る。帽子を落とした所じゃなかったもんなあ。
「何か思い入れのあるものだったか?」
「ううん。髪を隠すためだけだったし…」
帽子は日中かぶっていても頻繁に洗わなきゃいけないものでもないし、洗ったとしても乾くまでなくても困らないような時に洗っていたからわざわざ下着類や服のように替えを用意したりもしていなかった。だからイッカクちゃんが荷物を持って戻ってきてくれたとしてもその中に帽子はない。
ましてや、今からあの山の中に戻り探し回るほどのものでもない。
今はローくんの上着のフードが隠してくれているし。
ぼうっと考えていると「じゃあ、」と声が聞こえた。
「次の島で買ってやるよ」
「え?いいよ〜。次の島では下ろして貰えるなら自分で買うよ」
「……必要経費だ」
「何それ」
海賊に経費も何もないでしょう、と笑ってしまった。ローくんも微かに笑ったけど、すぐに真顔に戻る。
「お前の能力やら一族の話はあいつらにしない方がいいか?」
あいつら、と甲板を忙しなく動く船員さんたちを顎で示す。
「どうだろう……わたしはしてもらっても良いんだけど、みんながそれで危険に晒されたらやだな……」
ローくんと共に生きてきたみんなのことはもう信用しているつもり。だから、一族の話をみんなにしても、わたしとしては困ることもない。だけど、知ってしまったが故にみんなに危険が迫るのは嫌だ。
わたしの考える先が分かったのか、ローくんは「あいつらはそんなにヤワじゃない」と言った。その声は自信に満ちていて、みんなのことを誇りに思ってるんだろうと感じさせるには充分だった。