第2章 出航
じっ、と目を合わせたまま、ローくんはわたしの頬に手を添える。
すり、と親指で撫でられるのがひどく安心する。
「おれはお前を攫いに来た」
「…わたしを攫いに?」
「ああ」
どういうこと…?いや、攫いにっていう意味は分かるんだけどその理由が分からないというか…。
能力を使いこなせてる訳でもないし、腕っぷしを含めて、強い訳でもない。
船や海に関する知識だってないし、料理が得意な訳でもない。
出来ることは人並み、もしくはそれ以下。
どこに攫いに来る理由があるの?
「…ちょっとよく分からないです?」
ふっ、とローくんは笑って「別に分からなくていい」と言った。
「分かろうが分からまいがおれはお前をこのまま誘拐する。海賊だからな、欲しいものは強奪してでも手に入れる。お前に拒否権は無い」
ニィ、と不敵な笑みを浮かべるローくんは確かに海賊らしい。
わたしに拒否権、ないのか…。誘拐って初めてされた…。誘拐って聞くと怖いことのはずだと思うんだけど、今わたしは全く恐怖を感じてないし、何なら安堵すら覚えている。
ああ、そっか。女将さんにローくんたちと一緒に行ったらどうかって言われてたんだった。
それをわたしは「もし断られたら、」と考えていたんだ。
それを聞く前に誘拐ということで一緒にいられることが分かって安心してるんだ。
「…えっと…わたしどう反応したら…」
「叫んだりしたらいいんじゃないか?誘拐されてんだから」
「ワ、ワァ〜」
「フッ…下手くそ」
叫ぶのは叫ぼうと思って叫べるものじゃないことを知った。
「シャワー浴びたいだろうが、今はこれで我慢してくれ」
そう言いながら桶にお湯を張り、その中にタオルをつけ絞ったものを手渡される。
確かに、身体が汗などで気持ち悪い感じがしていた。けど手首のこともあって、先にシャワーを借りたところで傷に沁みたりして大変だっただろう。
「ありがとう」
と、それを受け取ろうとした…が、ローくんが手を離さない。不思議に思い見上げると目が合った。
「な、何か…?」
「…お前にさせたらまたしつこく擦るだろ」
そう言われて昨日のことを思い出す。確かに昨日、わたしはズボン越しに触られた太ももでさえしつこく強く擦った。