第2章 出航
「く、あが…死の外科医さんは…バケモンが好きなのか?」
ハッ、と心臓を握られた男が乾いた笑いをする。
「なんだと?」
「ゲホッ…神の一族といい、ミンク族といい…ミンク族はさほど金にならねェが神の一族なら引く手数多だ。どこに売るんだ?」
「テメェ…」
心臓を握る手に力を込めればすぐに男が呻き声をあげる。こいつ、自分の置かれている状況が分かっているのか?
そのままやはり心臓を握り潰そうとすると、その手に小さな手が添えられる。
「ローくん」
解けかけたロープが巻き付く手は手首が赤く擦れ、皮が剥け出血した痕跡がある。その手はおれが貸した服を胸の前で握りしめていた。
「キャプテン、リアの手当てもしてあげなきゃ…」
困り顔でベポが言う。
「…そうだな」
クルーからもリアからもそう止められては言うことを聞く他ない。立てた鬼哭も収めてやる。が、最後に───────
「カウンターショック」
握っていた心臓に親指を突き当てた。
目の前で不思議な光景が広がる。
出血もないバラバラにされた人体が麻袋に詰められていく。
わたしはというと、ベッドに固定されていたのがなくなった分緩くなったとはいえ、完全には解けていなかった縄をローくんに取ってもらった所だ。
「上着、着とけ」
「うん…ありがと…」
縄を解いてすぐにローくんは背中を向ける。多分、上着を着る時に見ないようにしてくれてるんだろう。
ローくんが貸してくれたパーカーはフードがあって、前開きのファスナーがあるタイプで、おしりまですっぽりと隠れた。しかしブラジャーもなく、ショーツだけしか履いてないのはなんだか心許ない。あと袖が余りすぎているのが扱いづらい。
「着たか?」
「うん。着たけど…袖が…」
ローくんは確認して振り向くと少し驚いた顔をしていたが、すぐに目を逸らすようにわたしの袖先を掴む。
「捲ればいい」
「捲っていいのね」
「ああ。…ベポ、おれは先に船に戻る。回収したやつはそいつらの船に───」
「分かってるよ、キャプテン。ペンギンたちが詰めるもの集めてるはずだから大丈夫」
詰めるもの…?
ベポくん達に告げると、ローくんはわたしを片腕で抱え上げた。
バランスを崩さないようにローくんの肩に掴まるようにして手を置く。