第2章 出航
「女将さんのことが心配なんですよ。わたしも大将がいてくれた方が心強いです」
そーお?と言いながらも女将さんは少し嬉しそうだ。
この2人はやっぱりお似合いだなあ。
「それでね、昨日の今日で急な話なんだけど…」
「はい…?」
女将さんは周りを少し気にするように目配せしながら声を潜める。
「リアちゃん、あの昔馴染みのキャプテンさんとこの島を出たらどうかしら」
…え?
「なんで…わたし、ちゃんと出来てないですか、仕事…」
頑張ってるつもりだったけど、『つもり』でしか無かったのだろうか。
「違うのよ!仕事は十分動いてくれて助かってる。けれどそうじゃなくてね…リアちゃん、今までよりあの人が来てからの3日間の方が生き生きしてるように見えたのよ」
女将さんの言葉に大将が大きく頷いた。
生き生きしてる…?
「リアちゃん、この島に来て、私たちの店で働くようになって…最初の頃と比べ物にならないほどよく捌けてる。けれどあなた、毎日毎日家とお店の往復だけでしょう?何だかねえ、身体は元気なのに精神が元気じゃないって言うのかねぇ…」
確かに、両親が犠牲になってまで救われて生き残ることだけを考えて必死に生きてきたけど、島々を転々とするうちに何度もこの生活に意味はあるのかと自問していた。
その度に『生きる』ということ以外何も無い自分に寂しくなり、しかしどうせ誰の隣も歩けないと諦めのような気持ちでいた。
ローくんたちがこの島に来てからの3日間はそんな気持ちを抱かなかった。考えることもなかった。
わたしは『生き生き』としていたのか…
「だからね、簡単な事じゃないだろうし、危ないことだとは思う。決して生半可な気持ちで言ってるわけじゃないの。義理でこのまま島にいるよりは、あなたがあなたらしく生きることが出来る人の傍に行ってもいいんじゃないかしら」
テーブルに置いていた手を優しく包まれる。
わたしが、わたしらしく…
「傍に居たいと思える人に出会えることは素敵なことよ」
そう微笑む女将さんを大事そうに大将が肩を抱く。
そっか…この2人がお似合いなのはお互いのことを大切に思い、お互いの傍にいたいと想ってるからなのか…。