第1章 初恋
「今日、泊まっていいか」
「へ?」
カツ、と足音が鳴り止む。気づけばもうアパートの前に来ていた。
「いいか?」
再度聞かれて、「良いけど…」と考えもせずに答える。
するとローくんが持ってくれていたカバンを渡される。鍵を開けろってことかな?
カバンを受け取ると、ゆっくり足から下ろされ、店を出て初めて自分の足で立つ。
玄関の鍵を開けると押し込められるように中へ入った。
わたしを押し込んだローくんは扉を閉めるギリギリまで外を警戒するように睨んでいた。
「もう風呂入って寝ろ」
「えっ、早くない?」
時計はまだ0時を差したところだ。いつもより2時間は早い。
「早く無ェ。さっさと行動しねェとバラしておれが風呂に入れるぞ」
「…それすごく嫌かも…」
バラされて身動きが取れない状態でローくんにお風呂に入れられるなんて。
まあ、気持ち悪い汗がまとわりついていて良い気がしないのも確かだし、お言葉に甘えて(やや強引に押し切られてはいる)いつもより早いけどお風呂に入ってさっぱりしよう。
「ローくんは?今日はお風呂どうする?」
「おれはいい。オペの後にシャワー浴びてきた」
「そっか…お疲れ様でした」
労うと「いいから」と手で早く行くよう急かされた。
着替えを持ってバラされてしまう前にお風呂へ急ぐ。
本当は店から追い出すまでもなく殺してやっても良かった。
オペを終えてウニ達と艦へ戻り、シャワーを浴びた後、能力を使ったことにより消耗した体力を回復させるために数時間寝ていた。
もう明日の夕方にはこの島を出る。
そう思うとリアの顔が浮かび、最後に、と店へ向かった。
扉を開けてすぐ、身なりの汚い男たちが邪魔だった。人数的にも今日停泊したという海賊なのはすぐに気づいた。
舌打ちをする、というところでイッカクに呼ばれ、身なりの汚い男たちがおれを振り返る。
そいつらの間から、見えたリアの姿。
汚ェ男に方を抱かれ、顎を掴まれ、異様に近いその顔の距離。
一瞬でドス黒いものが内側を巡った。
汚ェ手で綺麗なものを触る、リアがおれの知らない男に触れられる。条件反射のように能力を使っていた。