第1章 初恋
わたしの話を聞いて、ローくんは舌打ちをした。
きっとお粗末な対処の仕方に呆れたのだろう。
「…こいつ、今日はもう帰らせていいか」
唐突に、ローくんは大将と女将さんを振り返り聞く。
「もちろんだよ。今日はもう店も閉めるわ。あなた達には申し訳ないけど…」
女将さんはペンギンくんたちに申し訳なさそうに言うと、ペンギンくんたちは「「全然!」」と首を横に振った。
「それだったらわたし片付けを…」
「いいから帰んなさい」
「でも何も出来てないですし…」
「あの海賊たちがいる間は店を閉めるわ。だから片付けも急いでしなくていい。明日は私と一緒に港から離れた所のお茶屋さんに行ってまったりしましょ」
わたしが二の句を継げないように女将さんは矢継ぎ早に言う。
女将さんとお茶しに行くなんてこと、初めてだ。
お店は緊急事態じゃない限り休まないし…。
女将さんの優しさを素直に受け取らせてもらおう…。
わかりました、と返事をするとすぐにローくんに抱えられる。
「えっ、」
横抱き───これはいわゆるお姫様抱っこでは─────に抱えられると、大将が荷物を持ってきてくれたようでローくんに手渡される。
ローくんが持っていた刀はシャチくんが手に取り、「じゃあ、おれらは艦に戻るわ」と言って6人は店を出て行った。
「ローくん、あの、わたし歩けるから…」
「オペのことバラしていいのか」
「な…」
今オペのことを持ち出すとは思わなかった。
手術されたことは女将さんたちに言ってないから、今それを話されてしまうとある意味火に油を注ぐようなものだ。
心配に心配を重ねさせてしまう。
大人しく抱えられる他なかった。
「それじゃあ、今日はよく休むんだよ。頼んだよ、キャプテンさん」
「ああ」
女将さんたちに送り出されて、わたしはローくんに抱えられたまま店を出た。
カツ、カツ、と1人分の足音だけが石畳の夜道に響く。
「…ありがとう、助けてくれて」
「…別にお前を助けたわけじゃない。奴らが目障りだっただけだ」
素っ気ない言葉だけど、しかし言い方は優しく感じる。
「それでも、わたしは助かったって思ったから。ありがとう」
道を真っ直ぐ見ていた目が、わたしが映るほどの距離でわたしをみる。