第1章 初恋
その心臓はわたしの顎を掴んでいた海賊の船長のもので、驚いたのかその手は既にわたしから離れている。
ゲハ、と笑うけど、先ほどのような威勢は無い。
「や、やれるもんならやってみろよォ!」
引きつった顔をしながらも、船長として負けれないと思っているのか、虚勢を張ることは出来るらしい。
その言葉にローくんは容赦なく心臓に力を加えた。
「ぐぁッ、、」
「船長!こいつァ死の外科医ですぜ?あいつらもよく見りゃハートの海賊団のマークがついてら」
大男の近くにいた船員が耳打ちする。それに苦虫を噛み潰したような顔をして海賊の船長は席を立つ。
「ゲ、はァ、、仕方ねェ。今日はこれくれェで帰るか。じゃあな、ねえちゃん。また来るぜェ」
最後に汚い手でわたしの唇をなぞっていく。
そのタイミングでまた心臓を握られたのか、その大男はもう一度苦しむ素振りを見せた。
「返せよ、心臓…」
「ああ。ほらよ」
そう言いながら、ローくんは店の外に勢いよく、そのキューブを放り投げた。
「なッ?!」
それに慌てて、船長だけでなく、船員が急いで店を出て行った。
果たしてその心臓はどこまで飛んで行ったのか。
「「キャプテ〜ン!!!!!ありがとォ〜〜〜〜〜〜〜!!!」」
しん、と静まり返っていた店内の静寂がシャチくん達により破られる。
その声に厨房にいた大将と女将さんもホールへ出てくる。
わらわらとハートの海賊団の6人に群がられるローくんがわたしの方へ近づいてくる。
「おい。何があった」
見下ろすローくんの顔を見ると、張り詰めていたものが切れて視界が歪む。
おい、と言いながらもわたしに目線を合わせるようにしゃがみ、涙を拭ってくれる。
「リア、あのクソ野郎の相手してたんだ。その…尻触られたりとか…肩組まれたりとか…それを耐えてて…」
ペンギンくんが言いにくそうにローくんに説明する。
「お前らは?」
「おれらは…その、」
「ローくん」
このままでは6人が責められかねないと、口を挟む。
「わたしが何もしないでって。みんなにも、大将たちにも。ここで暴れられたりしてほしくなかったから…その…ある程度はわたしが我慢すれば大丈夫だって思って…」
結果、気持ち悪さで大丈夫では無かったけれど。