第1章 初恋
「おい、そこの兄ちゃんたち!」
海賊のひとりがハートの海賊団の4人に声を掛ける。
「あ゛?」
「なんだァ?その態度は」
声を掛けられたシャチくんの返事に声を掛けた海賊が眉をひそめる。
シャチくん、やめて…!機嫌損ねさせないで!
「んっん゛…なんスか?」
またしても願いが通じたのか、シャチくんは明るい返事に変えてくれた。
「おれらがいるのになんで帰らねェんだ?」
「…おれ達も呑みに来てんスよ〜。他のお客さん来たからって帰らなきゃいけない道理なんてないっしょ」
あくまで明るくヘラヘラと言っているけど確実に喧嘩を売りにいってる気がする…!頑張って!抑えて!
と、心の中で願っていると唐突にわたしの肩にあった重みがなくなり、その手が腰を伝い、太腿へと下りてきた。
「っ、」
あまりの気持ち悪さに息が詰まる。
「ねえちゃん、なんでそんな帽子かぶってんだァ?」
太腿を撫でる手とは違う手で、帽子の下から、わたしの額を触るようにして帽子を払いのけられた。
トサッ、と音を立てて帽子が落ちる。
「ゲヘッ、綺麗な目ェしてんじゃねェのォ」
帽子を払い除けた手が今度はわたしの顎を掴み、無理やり目を合わせられる。
「こりゃあ、吸い込まれちまうなァ!」
そう言いながら、徐々にその顔が近づいてくる。
い、嫌…
気持ち悪すぎて、怖すぎて、声が出なくとも叫びそうになったその時───────
カランカラン
先程は音を鳴らすことが出来なかったドアベルが、今度こそ鳴った。
「キャプテン!」
イッカクちゃんの声が響く。
ドアベルがなったからか、イッカクちゃんが「キャプテン」と言ったからか。
海賊たちは全員、たった今入店したその人に目を向けた。
そのおかげで、囲まれた中に隙間が出来る。
気持ちが悪い大男の先にいたのは、ハートの海賊団『キャプテン』…ローくんだった。
ローくんと目が合ったと思えば、瞬く間にサークル状の薄い膜が広がり、ローくんが目にも止まらない速さで動く。
「握り潰されたくなきゃ、さっさとこの店を出ろ」
この数日で聞いたこともないようなドスの効いた地を這うような低い声でローくんが言う。
その手にはキューブに包まれた心臓が握られている。