第1章 初恋
願いが通じたのか、シャチくんたちは立ち上がるのをやめて座り直してくれた。
しかしその目は今し方入店してきた海賊たちに向けられていそうだ。目深にかぶっているその帽子の奥がギラリと鋭く光った気がした。
厨房に入ると、女将さんと大将がすぐに大丈夫か聞いてくる。
「何もされてない?大丈夫?」
「まだ大丈夫です。その、おしりは触られましたが、」
「なんだって?!」
女将さんが驚いた時には大将が無言で大きな包丁を持って表に出ようとする。
「ちょちょちょ待ってくださいっ」
「離しなさい」
大将は普段からにこやかな方では無いが、ここまで鬼のような顔はしてない。
「まだ大丈夫なので!このまま大人しくとは言わないまでも、問題なく飲み食いしてもらって帰ってもらいましょう!ね!」
包丁を持つ手を止めるように掴んで引き留めると、大将は凄んだまま不服そうに頷いて定位置へ戻っていく。
「とにかく、お酒が全部欲しいみたいなので、できる限り持っていきます」
「私も出るよ。ひとりじゃ持てないだろ」
「すみません、お願いします」
女将さんと2人で急ぎ、お酒を大量に用意する。
人数としてはハートの海賊団の初日よりも多い。店内にギリギリ入る、という感じだ。
カウンターにビールジョッキを置くとすぐに海賊たちが持っていく。
せっかく入れたお酒が零れるのが勿体ない。
「おい!そこのねえちゃんも来いよ!」
「え、」
「一緒に乾杯しようぜェ!」
口々に言われながら、強引に腕を引かれる。
その力はかなり強い。同じ海賊のはずだけど、ハートの海賊団にはされなかった扱いだ。
どれだけみんなが優しかったかが身に染みる。
知らない海賊たちに肩を抱かれ、何も持っていない状態で「「乾杯!!!」」と言われる。
一緒に乾杯って…ただ横にいさせたかっただけだろうか?
そう思い、乾杯が済んだところで離れようとしても肩から腕が離されない。
「あの、わたし料理を運びますので…」
「ああん?ねえちゃんはここにいろよ。あのババアに運ばせたらいいだろォ?」
クイ、と船長であろう海賊が顎をしゃくるように女将さんを示す。