第1章 初恋
「それじゃあ…明日の手術、頑張ってね」
応援してる、と言うと「誰に言ってんだ」と薄く笑われた。
確かに。お医者さんの中で世界一、いや宇宙一腕の良いお医者さんに言う言葉じゃなかったかもしれない。
家に入りながら手を振ると、やっぱり振り返してはくれなかったけど「じゃあな」と言いながら踵を返して来た道を戻って行った。
さすがに2日続けて家に引き込むのはやめとこう…。
翌日。
港が騒がしかった。
活気が溢れている、のではなく、また新たに海賊が停泊したらしい。
活気はむしろないと言った方がいいかもしれないほどに港を管理する人達やお店を開いている町の中は重たい空気が流れている。
昨日、買い出しの時に顔を出した八百屋の奥さんが言うには、ハートの海賊団と違い、かなりガラの悪い海賊が我が物顔で町を闊歩しているらしい。
「リアちゃんも気をつけなね」
「ありがとうございます。奥さんも気をつけてくださいね」
「そうねぇ〜ウチは旦那も頼りにならないし…」
「そんな」
わたし達のやり取りをお店の奥で聞いていた旦那さんは「なんだと!」と息巻いていたが、奥さんに「ほんとのことでしょ」と言われて「おれだって…!」と反論しようとしたところで奥さんに無視されていた。
わたしは被っていたキャスケット帽をより深く被り直し、今日は開店前まで家で大人しくしていようと心に決め、遠目にハートの海賊団の黄色い船を見た。
お店を開店してしばらく。
町の人もわたしと同じようになるべく家に出ないことを決めたのか、いつもよりお客さんが少なかった。
「今日は早く閉めるかねぇ」
「そうですねぇ…」
せっかく来ていたお客さんも「今日は早く帰るよ」と先程、お会計を済ませて帰ってしまった。
大将も口を真一文字に結んだまま腕を組み、厨房に仁王立ちしている。
と、そこでこの2日間馴染みになったペンギンくんたちが扉の鐘を鳴らす。
「あれ?おれらだけ?」
「やりぃ、貸切じゃん。キャプテンにもっとお金もらっときゃ良かった」
ペンギンくんに続き、シャチくん、ウニくんにクリオネくんが続いて入ってくる。
「今日はお客さん少なくて。好きな席座って?」
「ほ〜い」