第1章 初恋
「良かったよ。なんてったって相手は海賊でしょう?いろいろ心配してたのよ。昔馴染みって言ったって人が変わってるかもしれないし、もしくは今を逃したらいつ会えるか分かったもんじゃないからね」
「すみません、ご心配かけて…」
「いいのよ。無事だったんだから。それより昨日はその海賊さん達がたくさん飲み食いしてったから買い出しが多いのよ。さっきまで旦那とあちこち回ってたんだけどまだ足りないものがあってね」
先程から大将がいつも以上に黙々と下拵えや仕込みをしている。
…あんだけ飲み食いした上に持ち帰り用もあったのだから当然と言えば当然だ。
むしろそれに気付かず、ほぼいつも通りの時間に出勤してしまったのが申し訳ない。
「あの、わたしで良ければ開店準備してから買い足しに行きましょうか?」
「いい?お願いしようと思ってたのよ。ウチの名前だせば分かってもらえると思うから。買い足して欲しいもののリスト、渡しておくわね」
「はい!」
開店してもすぐにお客さんが満員になる訳じゃないから、出来るだけすぐ戻ってきてもらえれば大丈夫と言ってくれたが、出来るだけ急いで開店準備をして買い出しに行く。
買い出し用の荷車を借り、いざ出発。
「ふぅ…」
リストにあったもの全てを買い終えて(厳密に言えばツケだけど。支払いは料金を全て控えてもらい、明日女将さんたちが支払いに行くことを全てのお店が快く了承してくれた)、一息つく。
荷物が増えて重くなるにつれて、そこまで急じゃない坂道がしんどくなって来た。
よし、お店に戻らなきゃ。
もう開店時間を過ぎてしまっているから、大丈夫と言われてはいてもやっぱり気持ち的に落ち着かない。
この坂道を突き当たりの港まで下っていき、右手に曲がる道へ行けばお店だ。
荷車はカゴのように囲いがあるものの、こぼれないとも限らないし、スピードが出てしまったら止めれる自信がないから後ろ向きに行かないといけない。
「よい、しょっ、と」
荷車の向きを変え、後ろを見つつ坂道を下る。
この坂がゆるやかで本当に良かった。
今度から女将さんや大将と一緒に買い出しを手伝おうかな。
今までも調味料とか軽いもののおつかいはあったけど、ここまでのは初めてだ。
2人がこんなに大変な思いをしていたなんて…。