第1章 初恋
「おれがいない間にクルーの奴らに余計なこと話してないだろうな?」
別件でわたしを艦に残していく時にそういえば釘を刺されていたなあ。
「うん。わたしにとっては余計なこと、話してないよ」
わたしにとっては、というところで睨まれた気がする。
わたしが話す内容よりも───────
「みんな、わたしよりもローくんのこと詳しいから。そっちの方が聞いてて楽しかったかな」
わたしが知っているローくんよりも。
わたしがローくんと過ごした時間よりも、船員さんたちがローくんと過ごした時間の方が長い。
もしかしたら1番最後に加入した船員さんよりも、短いかもしれない。
「みんな、良い人達だね」
「喧しいだけだ」
そう言うローくんの顔は誇らしげに見えた。
そうこう話しているうちに家の近所まで来た。
「ここまでで大丈夫だよ────あ、っと術後観察、十分だと思うんですけど…」
「…そうだな。痛む様子も無ェし、足取りもしっかりしてるみてェだし。じゃあな」
そう言いながらも、ローくんは全く帰る気配がない。お互い足を止めたままだ。
「じゃ、じゃあね?」
軽く手を振って、わたしから家の方へと振り返り歩き出す。
…背後から歩き出す気配がない。
まさかと思い、後ろをチラッと振り返ると、わたしが「じゃあね」と言った時から変わらないローくんがこちらを見ていた。
「じゃあね!?」
「ああ」
返事をしておきながら動き出す様子がない。
もしかしてわたしの姿が見えなくなるまでいる気だろうか。
…意外と心配性だなあ。
そういえば、幼い頃もわたしが怪我をした時にローくんは何度も怪我の経過を聞いてきていた。あれはお医者さんを目指しているからだと思っていたけれど、もしかして心配性という性格もあったのだろうか。
そう思うと、なんだか胸の内がほわっと温かくなり、笑みがこぼれる。
もう一度だけ、手を振って家の方向に向き直す。
ローくんは手を振らなかったけど、それでもいい。
手を振りたいのはわたしの勝手だから。振り返してもらうのを期待してるわけじゃない。
振り返して貰えたら嬉しいけど。