第1章 初恋
「麻酔するって言ってもすぐに効くわけじゃねェ。一気に流し込む訳にはいかねェしな。だから効くまでおれの心音聴いてたらいい」
な、なるほど…?
確かに心音を聴くと落ち着くというのは聞いたことがある。
赤ちゃんを抱っこする時とか、子犬や子猫にも効くって…
とはいえ、この方法は普通思いつくものでは無い。
心臓丸ごと直で聴くなんて方法、オペオペの実を食べた人しか出来ない。
「ものは試しだ。寝転んで聴いててみろよ」
「え゛」
本物の心臓だから見た目がちょっと……
「目をつぶっておけばいいだろ。どうせ麻酔が効いてきたら閉じる目だ」
ニヤリ、と悪戯っ子のように笑う。
面白がってるじゃん…!
しかしここで『ご厚意』を無下にするわけにもいかない……というのは建前で、本音で言えば何やらやられっぱなしな気がして悔しい。
ローくんの腕から解放されると、ゆっくりと再度寝転んでみる。
横を見ずに目を閉じ、耳に神経を集中させてるように心臓の音を探す。
トクン、トクン、と一定の落ち着いたリズムで脈を打つ音が聴こえる。
「麻酔薬、差すぞ」
「うん…」
腕に針が刺さる感覚があり、一瞬息を飲んだが、それもすぐに心臓の音で落ち着く。
…すごい。本当に効果あるんだ……。
診察台の上で、ましてやこれから手術だというのに心地良くて麻酔が効く前に寝てしまいそう……
「…ん………?」
ゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が広がった。
起き上がろうと思ったけど、頭も体も重たい気がする…。
仕方なく頭だけ横に向けるように動かしてみる。
「お。目が覚めた??」
「ほんとだ。おれキャプテン呼んでくるわ」
「お〜。よろしく」
扉の開け閉めする音が聞こえ、視界に可愛らしいペンギン帽が揺れる。
「どう?体しんどくない?」
「…重たい、気がします…」
「あ〜麻酔がまだ抜け切ってないかな。多分少なめだったと思うんだけど」
寝てて良いよ、と優しく声をかけられる。
その時に気づいたけど、ここは診察台じゃなくて簡易的なベッドだ。
「オペの後、キャプテンが医務室に移動させたんだよ」
ああ、そっか。意識の無い人って通常より重たいらしいけど、シャンブルズだったら関係ないか……