第1章 初恋
「わたし、服着替えたりしなくていいの?」
ローくんがオペ室の扉を閉めて、刀を置いたところで聞いてみる。
「ああ。出血の心配もないしな。おれの能力でやるものだから細菌の心配もしなくていい。もともと怪我してるものを治療する時はそうもいかねェが」
なるほど。今回のわたしのは最初から最後まで切るにしても何にしてもローくんの能力でするものだから途中で菌が入る心配も出血もないのか。すごい。
「痛みはないはずだが…麻酔するか?」
「え、麻酔しないつもりだったの?」
パーカーの袖をまくりながら肩を竦められた。
「おれが自分のを除去したときはまだ能力の使い方がよくわからなくてな。ROOMは張れたが切断《アンピュテート》を使えず肝臓を取り出すことができてもメスを入れるときは激痛だった」
「麻酔お願いします」
食い気味にお願いすると、フッと笑われた。
「小心者だな」
「手術自体初めてなんだから優しくしてよ…わたし今すごいドキドキしてるんだから。心臓、とってみる?」
「持っておいてやろうか」
冗談を言いながら、準備が進められていく(麻酔かな?)
診察台に寝転ぶように言われ、ひんやりと冷たい診察台にゆっくりと寝転ぶ。
診察台も初めてだ。
寝転んで目を閉じてみる。
ベッドのような寝心地の良さはまったく感じられないけど、冷たかった診察台が自分の体温が溶け込んでいくにつれて少し落ち着いてきた気がする。
ひた、と耳の横に何かが置かれたのを感じ、横を見る───────
「!?」
「っぶねェ」
驚きすぎて診察台から落ちそうになったところをローくんが抱え込むように防いでくれた。
いや、しかしそもそも驚いたのはローくんのせいだ。
わたしの耳の横に置かれたのは、キューブ状に包まれた心臓だった。
「っ、な、何、」
「おれの心臓だ」
ぎゅ、としっかり抱かれている状態で平然と言われた。
視界に入るローくんの左胸辺りを見ると、ぽっかりと穴が空いている。
「わ、ぁ…穴だ…」
覗き込んでもよく見えない。どうなってるの。
「…心臓の音聴いてたら落ち着くって話、聞いた事ねェか」
「へ?」
ボソッ、と頭上から聞こえた。