第1章 初恋
コーヒーもブラックが飲めないという訳でもないけど、ブラックを飲んだらほぼほぼ胃が痛くなるからミルクを足す。
昔は甘いコーヒーが好きだったけど25歳を過ぎた頃からその甘さがしんどくなってきた。だから足すのは基本的にミルクだけ。
ボーッとカーテンを開けた窓の外を眺めながら、朝食を食べる。
本を読みながらゆっくり食べるのも好きだったけど、何回も島を、町を転々としているうちにどんどん自分の荷物は少なくなっていき、今では暇を潰す本ですら持っていない。
何度もこの生活に意味はあるのかと自問したことはある。
それに対する正確な、明確な正解はまだ見つけれていない。
楽しいことがないわけでもない。
色んな島や町を見て回れのは楽しいし、それぞれの土地での暮らしや食べ物を経験できるのも楽しい。
ただ転々とするにあたって絶対に乗ることになる船は少し怖い。
天候や潮のこともあるから必ず安全とは言えないし、ましてや海賊だっている。海賊にもきっと良い海賊・悪い海賊がいるだろうけど圧倒的に悪いイメージが勝つ。
……一部を除くけど。
時計を見ると思ったよりゆっくりしてしまったようで、そろそろ買い物に出ないとあっという間に仕事の時間になってしまう。
部屋着から着替えて、紺色のキャスケット帽をかぶり外へ出た。
基本的にはあまり食材は買わなくても大丈夫。
お世話になっている居酒屋の大将さんが賄いを出してくれるため、仕事に行く前に食べて行き、仕事の休憩で賄いを頂く。
しかし、さすがに少しお腹が空くことがあるから、軽く食べれそうなものを買っておくようにしている。
町を歩いていると、八百屋さんの店主とお客さんの話が聞こえた。
「今海賊の船が港に停まってるらしいわよ〜」
「ヘェ。乱暴な奴らじゃないといいがなあ」
「そうね。今は海兵さんたちも常駐してないから暴れられたら大変だわ」
…海賊かあ。
居酒屋で働いている身としては他人事ではない。
何故か海賊とはお酒が好きな人が多いのか、やたらと居酒屋に集まるのだ。
居酒屋は情報源にもなりやすいらしいけど、恐らくそういった『色んな人』が集まることが要因の一つだろう。
それに、ローくんも海賊になったらしいし。
初めて新聞でローくんの写真を見た時は驚いたのと同時に嬉しかった。