第1章 初恋
運命の出会いを信じているわけじゃない。
市民を守ってくれるはずの海軍や政府に追われ、両親と島を転々として……決して平穏では無い日々を生きてきたわたしは『運命』なんて言葉を信じたくなかったのかもしれない。
信じてしまえば、この生活さえも『運命だから』で片付けられてしまいそうで。
それでも、あの出会いは、
あるいはこの出会いは。
運命なんじゃないかって思った。
「これでもうだいじょうぶだ」
「ありがとう」
輝くほどの白い街並み。
2人の少年少女が微笑み合う。
特徴的な帽子をかぶった少年は、小さな救急セットをポケットにしまいながら立ち上がる。
そして目の前に座る少女に手を差し出した。
少女は手当をしてもらった膝を庇うようにしながら、少年の手を取り立ち上がった。
「まだいたいと思うけど、そんなにひどいケガじゃないから、治るまでそんなにかからないと思う」
「うん、ありがとう!」
「それにしても、いつもそれ、持ち歩いてるの?」
「うん」
それ、と少女は少年の膨らんだポケットを指さした。
「医者の息子だから。あたりまえだろ!」
フンッ、と得意げに鼻を鳴らしながら答える少年に少女は感心したように頷くと笑顔で言った。
「さすがローくん!」
……懐かしい、夢を見た
目を覚ました時、微かに自分の頬が緩んでいた気がした。
あれはわたしが幼い頃、1年程住んでいた街での記憶。
白い町『フレバンス』で仲良くしてくれていた1つ年下の男の子との記憶。
出会った頃には既に両親の跡を追いかけるように医学の勉強をしていて、怪我をするとすぐに手当をしてくれていた。
少しとっつきにくい所はあったけど、両親のことが大好きで、妹思いで面倒見が良く、かっこいい子だった。
思えば、あれはわたしの初恋だったかもしれない。
そう思い返したところで時計を見る。
もう動き出さないといつものスケジュールが崩れそう。
ベッドから立ち上がってスリッパに足を入れる。
顔を洗って歯を磨いて、居酒屋の手伝いをしてるため、人から見たら少し遅めの朝食を摂る。
コーヒーとパン。
起き抜けからご飯を食べるのは苦手だから、手軽に済ませれるパン食だけど、だからといってパン派というわけでもない。