第1章 初恋
ローくんは視線を逸らしてから「ああ」と返事をした。
スッと沈黙が走る。
もう呼吸も整い、流れる涙も治まってきたわたしは、自分がどこに座っているかを改めて自覚する。
「っ、ごっ、ごめん、も、ダイ、ジョウブ、デス…!」
慌ててローくんの膝から立ち上がった。
その慌てようが面白かったのか、ローくんが肩を揺らして笑う。
「長居しちまったな」
残っているブラックコーヒーを飲み干してから立ち上がると、わたしが座っていた場所に移動した自分の帽子を被り直す。
立て掛けていた刀を手に取ると、玄関の方へ歩き出そうとする。
「ま、待って!」
「?」
急いで去ろうとするシャツの裾を掴んで止める。
「3日!3日しか、いないんだよね…?」
「ああ。話したか?」
「ううん、この島のログはそれくらいで溜まるって女将さんが…海賊の人達がお店に来た時とかに答えれるようにって教えてくれてたの」
つまり、ローくんたちは3日もすればまた航海に出る。
次またいつ会えるのか、むしろまた会えるかも分からない旅に出るのだ。
だから……
「と、」
「と?」
「泊まって行かない?」
「は?」
わたしの言葉を聞いて怪訝そうな顔をする。
「お風呂、湯船あるよ!さすがに着替えとか歯ブラシはないけど…今日だけ…駄目、かな?」
船長である彼がどれくらい艦を空けていいのか分からないけど。
少しでも一緒にいたい。
「…分かった」
逡巡したのか、一拍置いて了承してくれた。
客なんだからと先に風呂に入らされた。
…どうしたものか。
湯で体から力が抜けていくのを感じながら天井を仰ぎみる。
小さな湯船では足を伸ばすことも叶わないが、潜水艦にはないもので一応は疲れが取れる気がしないでもない。
普段リアが使っているシャンプーにリンス、ボディソープだの…それぞれを借りた。
この状況はなんだ、と度々自問しながら。
リアからしたら、新聞で知っていたとはいえ、おれが本当に生きていることを実感してその嬉しさのあまり、といったところなのだろうが…。