第1章 初恋
全てを話し終えても、ローくんは涙を流さなかった。
代わりにわたしが涙を流し続けた。
「何聞いても泣くじゃねェか」
「そ、そういう訳じゃ、」
ずっとローくんはわたしを膝の上に乗せたままで、背中をさすってくれている。
その手はとても海賊とは思えないほど優しい。
「両親たちへの思いはコラさんのおかげで…なんて言うか…昇華されたんだ。悲しくはあるが」
「うん」
「けどコラさんのことは…」
「うん」
ギリ、と音がしそうな程に歯を食いしばるのが分かった。
その顔に、思わず手を伸ばす。
ローくんがしてくれたように撫でてみる。
撫でると段々食いしばっているのが和らいでいくように見えた。
「おれはあの日、あの人が引けなかった引鉄を引きに行く」
決意を口にする目はとても鋭かった。
うん、と頷いて返す。
「…止めたりしねェんだな」
背中を優しくさすってもらったおかげで、だんだんと呼吸も落ち着いてきた。
「復讐は新たな恨みを生むだけだよ、亡くなった人達はそんなこと望んでないよ、って?」
「…ああ」
「…だってわたし、亡くなった人達じゃないもん」
世の中、綺麗事で済ませれたら良かった。
けどそうはいかないことを知っている。
「亡くなった人達がどう思うかなんて知らないもの。どう思われたとしても結局は生きてる自分の気持ち次第だよ」
わたしは誰に恨みつらみを言えばいいか、もう分からない。
それに、復讐しようと考えるよりも生き延びなくては、ということしか考えてなかった。
「ローくんが生きているなら、ローくんがしたいようにすればいいと思う。できれば、その過程で死ぬようなことは絶対にしないで、とは思うけど」
意外な言葉だったのか、また驚いたような顔をしている。
その瞳と視線を合わせるため、両手でローくんの頬を包む。
「お願い、絶対に死なないで。わたしが言えるのはそれくらい」
ジッと目を見つめて、懇願すると、ローくんの瞳が僅かに揺れたように見えた。