第5章 潜水艦と日常
重たい体に目が覚め、ゆっくりと目を開ける。
……この部屋で目が覚めるのは2度目だ。いや、細かく言えば3回目、かな。1度目と2度目は同じ日だけど。
体は寝た時と変わらず自分よりも逞しい腕と足に固定されていて、寝返りが打てなかった弊害なのか体が少し痛い気がする。
わたしを寝かしつけるように肩を優しく叩いていた手が肩を抱いておらず、わたしの顔の前にベッドへと沈んでいた。
そういえば、問題の肉まんを食べた時、この大きな手が心地よかったな……そう思ってあの時と同じように顔を擦り寄せると手の主の体が強ばるように動いた。
起きたかな…?
首だけを動かせる範囲ギリギリまで動かしてもその顔を見ることが出来ず、両手首を掴む手が緩んでいるのをいいことに結局体ごと向きを変えることにした。
体が動いたから起きたかと思ったけれど、ローくんの目は瞑ったままだった。
しかしなんだろう。これは寝たフリな気がする。よくよく見れば閉じた瞼の奥が微かに動いたように見えた。
「…起きた?」
「…………」
「寝てる?」
「…………」
徹底的に寝たフリすることにしたのだろうか、返事がない。
それならば、と試しに離れるように後ろへ体を傾けるとすぐに強い力で抱き締められた。
……ち、近い……。というか、起きてるじゃん……。
「やっぱり起きてるでしょ」
僅かに差し込めた腕をローくんの鎖骨下あたりにグーにして隙間を作りつつ上を見あげると、目を瞑ったまま口角を上げる顔が見えた。
「今起きた」
「あら、じゃあわたしが動いたせい?」
「そうだな」
「ちゃんと寝た?」
絶対嘘であろう発言をスルーしつつ、またしてもローくんが寝るところを見逃したわたしはそれを聞いた。起きる所を見ても寝たところを見ていないから、本当に寝たかどうかわからない。
しかも自分が寝た時間も見ていなかったから今の時間を知っても空の色が変わってない限りわからない。そして潜水艇は今、海の中だ。余計時間がわからない。
「寝た。まだ寝てやるよ」
「ほんと?じゃあわたしはお皿、持って行くね」
「あ゛?なんでだ」
起き上がろうとしても離してもらえるどころか余計締まった。蛇かな?