第5章 潜水艦と日常
「ちょっ!ローくん!!?」
自分の髪をローくんの鼻がかき分けるように当たり、繰り返す呼吸音に匂いを嗅がれていることが分かり、どうにか離れようと自分の体とローくんの体の間になんとか両腕を捩じ込み、押し返そうとするけれど全くビクともしない。か、硬っ!
「やめっ…ンぃ、くす、ぐったぃ、」
「お前が何と言おうと気にならねェ。不安ならまだ嗅いでやろうか」
そう言ってまたわたしの耳の横でスゥ───と息を深く吸う音が聞こえる。
「も、もう、わかったから!やめて!」
必死にローくんの胸を叩きながら抗議するとようやく体が離れた。驚くことにローくんは片手にトレーを持ったまま、もう片方の手でわたしを強く抱きしめていたらしい。わたしの抵抗でよくトレーを落とさなかったな、と思うのと同時につまりはわたしの抵抗は体幹がしっかりしているであろうローくんには敵わなかったということに改めて驚いた。
トレーをデスクへ戻した彼はそのまますぐにベッドへわたしを誘うように手を引く。
……今からわたしは『大人の』ローくんと同じベッドで寝る。そんなの、もうすでに2回ほど経験しているのだからなんてことないはず。最初のときなんてお風呂上がりの上半身裸だったんだから、今の服を着ているローくんなんてなんでもない……なんでもない…それでもなぜかわたしの体温は上がっていく。
「寝転べよ」
その声にハッとして寝転ぶローくんの隣におずおずと「お邪魔します、」と言いながら、天井だけを見るように仰向けになる。しかしこれでは熱が集まる顔を見られそうな気がして、ローくんとは反対の方向を向くように体を横にした。
「?!」
わたしが横を向いたことに関係があるのかはわからないけれど、首とベッドの隙間に腕が差し込まれ、その腕が上になっている肩へとまわり、もう片方の腕が腰を引き寄せるように動き、がっちりとお腹へまわされ、わたしの背面はほとんど隙間がないようにローくんに密着した。
それだけでもパニックなのにさらには足までわたしの体に乗っかる。