第5章 潜水艦と日常
「わたしは別に今からしなきゃいけないことはないから大丈夫だと思うけど…ローくんも前、わたしと寝てたから大丈夫だと…」
「……キャプテン、鋼の精神の持ち主?」
「ハクガン、キャプテンはすごいんだ…」
厨房から出てきたペンギンくんとハクガンくんが急にローくんを褒めだした。いや、ローくんはすごいから全然急に褒め始めたっておかしくはないんだけど、いまいち2人が何の話をしているのか分からない。ローくんが寝れるかどうかの話じゃないのかな?
「リアってキャプテンにドキドキとかしないの?」
「え?」
「一応確認しとくけどキャプテンが男だって分かってる?」
2人からそう聞かれて考える。
もちろんローくんが男の人だってことは分かってる。再会したときだって『ちゃんと大人の男の人になってる…!』と感動したし。
ドキドキ…もする時がある。急に距離が近くなった時とか…抱っこされた時とか…
両手首の怪我を治療してもらって、体を拭いてもらった時もドキドキした……
…再会してから今日までのことを思い出すと顔が熱くなってきた。
「あ、これはちゃんと認識してるな」
「なんなら意識してるのでは」
額にかき始めた汗を手でなぞっていると2人してそう言われた。
逃げるように食堂から出て船長室まで走った。
大した距離でもないのに上がったままの熱は治まらず、喉が締まるように苦しい気がして鼻呼吸が激しくなる。
勢いで船長室の扉をノックしようとしたけれど、今の汗をかいた自分で思い留まり、手を下ろした。
…こんな汗をかいた状態で同じ部屋にいるの?
寝かしつけるだけとはいえ、近くに行ったら汗の匂いがしてしまうのでは?
どうしよう、どうしよう、とぐるぐる考えてるうちに目の前の扉が急に開いた。
「!?」
「入らねェつもりか?」
「え゛っ!なんで?!」
まだノックしてないのに!わたしの足音そんなにうるさかった?いやでも潜水艦だし音が反響しやすい…?
おろおろと視線を彷徨わせていると、扉を開けたままのローくんがわたしの背中をエスコートするように押し、条件反射で足が前へと動いてついに入室してしまった。
バタン、と扉が閉まる。