第5章 潜水艦と日常
ローくんの部屋へ向かう前に女部屋から『聞きたいこと』がある借りた本を持ち出し、トレーを持つために本は脇へと差し込む。
目的の部屋へ着いてノックをして名乗ると、少し間をあけてから返事が聞こえた。
「入るね〜。ローくん、ペンギンくんが用意してくれたよ。少し休憩にしない?」
「…ああ」
部屋に入り、ローくんがいるデスクへ寄ると、広げていた本や紙を端に避けてトレーが置けるようにしてくれた。良かった、ちゃんと食べる意思はあるんだね。
「はい、どうぞ」
すぐにローくんは手を合わせて食べ始めた。…ハートの海賊団の皆もしてるけど、こういうちゃんと『いただきます』『ごちそうさま』をする海賊って珍しいと思う。今までも見たことはあるけれど、しない海賊がほとんどだ。
もくもくと食べるローくんを膝立ちをして横から見てみる。他に椅子がないんだもん。
「…なんだ」
「ん〜?なんでもないけど…ちゃんと食べてるな〜って」
「フッ、なんだそりゃ」
あ、そのなんでもない感じのふと笑ったっていう笑い方、久しぶりに見たかも。
しかしその目元には良くない色が見える。
「…いま、何徹目?」
「…………」
「答えすらしないのね。クマが酷くなってる。そんなに根詰めてやらなきゃいけないこと?」
先程、デスクの端に避けた本などを見ると、やっぱりどれも医学に関するもののようだ。すでにたくさんの医療についての知識はあるはずだけれど、それでも日々各地でいろんなお医者さんが研究している医療を少しでも頭に入れようと、寄る島々で本屋さんに寄ったり、直接病院を訪ねたりしている。病院やお医者さんを訪ねるのは少し迷惑がられていることもあるけれど。
「……別に苦じゃないからいい」
そっぽを向くローくんの垣間見せる子供っぽい仕草に思わず胸がきゅんとした。きゅん?
「…医者の不養生って言葉、知ってる?」
「はあ?おれは体調崩したりなんかしねェ」
「睡眠、大事なんでしょ?借りた本にもちゃんと書いてあったよ」
そう言うと、ムグ、と口を噤んだ。ほら、やっぱり寝てないから言い返せないんだ。