第1章 初恋
恥ずかしさで顔に熱が集まってるのが自分でも分かる。
う〜汗かいちゃう!
帽子を壁に掛けて、おでこの髪の生え際にうっすら滲む汗を拭う。
「と、とりあえず座ってて…」
「目ェ開けていいのか?」
そう言いながらも未だに笑っているローくんにまた顔が熱くなる。
「じゃあ閉じたまま座ってて」
「そりゃ難しいな」
ククッ、と小さく笑いながら目を開けたローくんは普段わたしがひとつしか使っていない椅子のもうひとつの方へ腰掛けた。
それを確認してわたしはキッチンへ移動する。
「夜だけど…コーヒーで良い?ブラック?」
「ああ」
すごい、ブラック飲めるんだ…。
2人分のコーヒーを準備して(自分の分はミルクを入れた)、テーブルへ運ぶ。
と、あ!!!!!
「な、っわ、、」
「熱心だな」
テーブルにはわたしが見つけ次第ファイリングしている、新聞に載ったローくんコレクションが広げられていた。
「えっ、ちょ、わたし出しっぱだった…?」
「さァな」
「ご、ごめん、その、つい、、、出来心というか、、、嬉しくて、、、」
グイグイとそのファイルを本人の手から取ろうとしてもやたらと強い力で阻まれ、なかなか取り返せない。
「嬉しくて?」
座っているローくんに、下からジッと見つめられる。
「ぇ、っと、い、生きてたんだ、って…」
本人に会えるなんて想定していなかったから、どう言っていいのか言葉を選ぶのが難しい。
何故か自分の気持ちが追いつく前に視界が滲む。
しかし、そう言った瞬間、ファイルがすっぽりとローくんの手から抜き取ることが出来た。
「?」
ローくんは目を逸らし、その表情は帽子に隠れてしまった。
取り返したファイルは先程下着を突っ込んだバッグの上に置き、ローくんと向かい合う席に座ると、それを見計らって、ローくんが口を開いた。
「そういやァ、親は?酒場の2人は違うよな?」
「あ、うん。違う。親はね、2人とも…亡くなったんだ」
わたしの言葉に、ローくんは「そうか」と小さく相槌を打った。
話したい。
ローくんになら、話しても良いだろうか。
自分の事情を自分しか知らないというのは結構苦痛だ。
誰かに知ってもらいたいと思ってしまう。
それは自己満足でしかないということは分かっていても。