第3章 上陸
急いでそれを片付けようかと足を動かしかけたが、薄っぺらいその布はくしゃりと乱雑に置いてあるお陰で一見すると何か分からないはず。
これはもしかしてこのままなんでもないようにしていた方が『何か』までは分からないのでは……?と思い至り、動かしかけた足を戻す。
「いつまでに返した方がいいとかある?」
何も気にする事はないと言い聞かせ、ローくんの意識を話に戻す作戦でいこう。
「いや。特にないからゆっくりで構わねェ」
「分かった」
「それよりお前、帽子はどうした?」
「え?ああ、」
イッカクちゃんの帽子を借りて街に出たわたし。もちろん買い物リストに帽子も含んでいたけれど、イッカクちゃんが「お揃いの帽子、姉妹みたいで良いじゃん?それあげる!」と嬉しそうに言うもんだから、そのままになった。
わたしとしても髪は隠れてるし、いっか、と思っていたことを話すと、
「……買ってやるって言ったろ。明日行くぞ」
「え?別に……」
「明日、迎えに来る」
「え、ちょ、」
そう一方的に話を切り上げ、ローくんは扉を閉めて立ち去って行った。
……え?もしかしてわたし、イッカクちゃんの帽子似合ってなかった??それで少しでも似合う帽子を見繕おうとされてる???
翌日、手首の怪我の診療のためにもローくんを訪ねた。
船長室から医務室へと移動する。
「もう傷も塞がってきてるから包帯はしなくていいが、時間があるときに念の為消毒をするようにしろ。誰に声かけてもいいから」
「消毒だけなら自分で出来るよ」
「……医務室は好きに出入りしていい。備品は島にいる間はいくらでも買い足せるから良いが、それでも無駄遣いはするなよ」
「は〜い。ありがとう」
今日から包帯無しなら借りてたパーカーとトレーナーの洗濯が出来るな、と考えながら医務室を出ようとすると呼び止められた。
「後で呼びに行くから艦から勝手に降りるなよ」
「ねぇ、ほんとに帽子買わなくてもイッカクちゃんがお揃いのくれたよ?」
「……紛らわしいだろ」
「紛らわしい?」
「うちの艦に帽子の種類がかぶってるやついるか?」
「……い〜ないかな?」
クルーの皆を思い浮かべながら答える。帽子も髪型も同じ人はいない。ツナギを揃えていても皆個性がある。