第3章 上陸
話は娼館のことから既に移り、わたしは聞きたいことを聞けなくなってしまった。
……ローくんもそういったお店に行くのか、ということを。
みんなが行くのを想像できるか、と聞かれるとそういう訳じゃないんだけど、彼が娼館に行く想像を全く出来ない。
そんなこと聞かなくてもわたしは困らないのだ。……困らない……けど……気になってしまう。
再会するまではそんなこと考えもしなかった。少ないとはいえ、新聞で知る情報だけで満たされていたのに、いざ再会するとそれ以上のことが知りたくなってくる。
「リア、どうした?」
隣で静かになったわたしを不思議に思ったようで、シャチくんが顔を覗き込んでくる。
「ううん、何でもないよ」
そう言ってわたしは自分のよく分からないモヤモヤとした疑問を飲み込んだ。
艦に戻ると、ペンギンくんとシャチくんは女部屋まで荷物を置いていってくれた。
イッカクちゃんも他にすることがあるようで部屋を出て行き、今わたしは部屋で1人、寝床の準備をしようとしている。
マットレスがシングルでも割と重いことは既に承知している。外では念力を使うことは出来ないけど、艦の中でなら気にせず念力を使うことが出来る。
よし。
わたしの念力が使える範囲(?)は両手が使えるところまで。
右手でひとつ、左手でひとつ、というように離れたものをいっぺんに全て持てるというわけではない。しかも使う対象が大きくなればなるほど片手では扱えない。それはマットレスにも当てはまる。
片手で持ち上げることは出来たとしてもどういう理由か、本当に持ち上げるだけで方向転換とか向きを変えることができない。
だから両手で持ち上げる代わりに、両手を使って念力で抱えるようにして、自分のベッドへ慎重に載せる───────
「おい」
「わアッ!?」
載せようとしたマットレスが1度天井に叩きつけられ、そのまま床へボスンッ!と音を立てて不時着した。
驚いて心臓がバクバクと跳ねる。
「……ノックはした」
「……ごめん、気づかなかったみたい……」
扉を開けた状態でローくんがわたしの後ろに立っていた。