第3章 上陸
「…もう熱くなくなったから、治まったと思う……」
向かい合うように立ち、壁に背を預けて立つローくんに言うと、「そうか」と返ってきた。その声や表情からは呆れてるかどうかの判別は出来ない。普通のようにも聞こえるし、そうじゃないようにも聞こえる。
「イッカクちゃんが来るまで居てもらわなくても、」
「おれにどこかへ行って欲しいのか」
「…へ?なんで?」
ジッとわたしを見下ろすその表情をどう捉えるべきか悩む。
何故わたしがローくんにどこかへ行って欲しいと考えてる、ということになるのか。
「あの、さっきも言ったけど、ローくんもまだ見たいところとかあるんじゃないかなって……だからわたしはもう体調も戻った?し、そのうちイッカクちゃんも来てくれるし……ほんとにそれだけでどこかに行って欲しいわけじゃ……」
「ならイッカクが来るまでおれもいる。お前を置いて急いで見なきゃならねェものもない」
「そ、そっか…、ありがとう」
とは言ってもなんというか、気まずい空気が流れてる気がするのは気のせいでしょうか…?
いや、まあ、わたしが勝手に醜態を晒して気まずくなってるだけっていうのがいちばん有力な可能性だ。
なんとも言えない空気に耐えていると、街の通りから路地裏にひょっこりとイッカクちゃんが顔を出した。
「リア!大丈夫?!」
すぐに駆け寄ってきてくれて、わたしの肩を摩ってくれる。
「うん、大丈夫。もう何ともないよ」
「良かった〜!キャプテンにも何もされてないね?」
「あ゛??」
突然の疑いにローくんが眉間に皺を寄せ、イッカクちゃんを睨む。何故ローくん??
「何も……むしろ手を貸してもらったよ」
「手を貸す?!」
ぐりん!と音がつきそうな勢いでイッカクちゃんがローくんを見て、その視線に「違う。そういう意味じゃねェ」とより皺を深くして断固否定した。どういう意味の話…??
わたしが首を傾げたのを見てイッカクちゃんは「……本当に何もなかったのね。良かっ……良かった?いや、キャプテン的には良くない?」とブツブツと思案していた。
その様子を見て、ローくんはため息をつきながら「いいからあとの用事済ませてこい」と表通りを親指で指した。