第3章 上陸
居てくれるのならば、既に迷惑をかけていて申し訳ない気持ちももちろんあるのだけれど、もうひとつお願いをしてもいいだろうか……
「……手、貸してもらってもいい?」
「は?」
立ったままのローくんを見上げると彼は眉毛を片方だけピクリと動かした。
「さっき、つめたくて気持ちよかったから……」
考えてみれば変な話だ。暖まるために肉まんを食べたのに、今度は冷たい手を求めるなんて。
「………」
無言・無表情で、刀(鬼哭というらしい)をわたしが座る木箱に立てかけるようにしてから両手を差し出してくれた。その手にお礼を言って、右手はローくんの左手を、左手はローくんの右手を掴み、両頬へ持っていく。
先程よりは冷たく無くなっていたけれど、今のわたしの頬のほうが熱くて充分に熱冷ましの効果はありそう。
「……ローくんの、きもちい、」
「……」
迷惑をかけておいて能天気も甚だしいとは思うけど、自分より大きな手は気持ちいいし、安心する。
……しかし触れれば触れるほど、先程から自分の股からトロリとしたものが僅かに発生している感覚がある。流れ出て止まらないほど、とかではなく少しショーツが濡れるか濡れないか程度の……。
その……『誰か』との経験はないけれど、年齢も年齢だし、興味が全くないわけでもなくて、自分で自分を慰めることを幾度かしたことはある。そういった時、上手くいかなくて「こんなものなのか」程度の慰めしか出来ず、あまり『気持ちいい』が分からなくて、濡れる量も少なくて…………あれ?わたし今何考えてる?
「……あ、ありがとう。もう、だいじょうぶ……」
だんだん、自分の頭がおかしな方向へと考えがいっている気がして何となくやましくなり、ローくんの手を解放した。
そういえば、先程からローくんが静かだ。もともとお喋りが多いタイプではないとは思うけど、それにしたって静かだ。
…もしかしたら呆れてるのかもしれない。迷惑かけてる、ということを「いや、」とは言ってくれたけど……。
だいぶ効果が薄れてきたのか、火照っていた身体も元に戻ってきて、じんわりかいていた汗も治まってきた(ちょっと寒い……)。