第7章 この世の良さ
そっとヒカリの頬に触れ、ゆっくり顔を近付ける。
「む、ムラサキさんっ!?」
「病院でキスして欲しいって言ってただろ?自分で言っておいて驚くな…」
顔を真っ赤にしたヒカリがギュッと目を瞑る。互いの唇が触れるか触れないかの距離で急に気持ち悪くなった。
「ムラサキさん…?」
一旦、ヒカリから身を引き、考える。こんなに気持ち悪くなるほど騒いだり、食べたりしただろうか?
《ヒカリside》
自分で欲しいと願ったキス。…がムラサキさんが急に離れ、うずくまった。
「大丈夫ですか?!ムラサキさんっ」
「は…」
「は?」
「吐きそう…」
「え!?ちょっ!ちょっと待って下さいっ!えーっとー!」
近くのコンビニでトイレを借り、ムラサキさんが落ち着くまで背中をさすり続けた。
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「本当に大丈夫ですか?」
「あぁ…」
ぐったりとしたムラサキさんを連れて一旦、自宅に帰った。流石にこのままムラサキさんを帰す訳にもいかず、自分の部屋に招き入れた。
「お嬢様、お帰りでしたか」
「うん、とりあえず、水貰える?」
「分かりました」
ムラサキさんをソファーに座らせ、伊吹が持ってきた水を渡す。さっき、食べたものの中に変なものでも混じっていたのか…でも、マスターに限ってそんなことあるだろうか。
「…あいつら、酒入れてたな…」
「酒?」
少し顔色がよくなったムラサキさんが顔を歪めて呟いた。あいつらと言うのはおそらくナイスくんやバースデイさん達だろう。
「だから、さっき…」
「さっき?」
「…急に抱き締めたりキスしようとしたりして悪かった」
「い、いえ!嬉しかったと言うか…恥ずかしかったと言うか…」
さっきの情景が蘇り、勝手に頬を火照られる。でも、さっきのが酒に酔った勢いの行動だったのだと思うと少しがっかりした。
「…お嬢様、何か召し上がりますか?」
「軽食でいいから何かお願い出来る?私とムラサキさんの分」
「承知いたしました」