第7章 この世の良さ
「なに…?」
「すぐに分かりますよ」
教師は薄く微笑み、背を向けて歩き出した。
「逃がすか!」
ナイスが後を追うがこの機械の中だ、捕まえることは叶わず、逃がしてしまった。
「ヒカリ…」
ヒカリの名を呼ぶがピクリとも反応しない。あの教師はすぐ分かると言っていたがどういう意味なのか。とりあえず、ここから出ようとした時…
「うっ…」
ヒカリが唸った。
「ヒカリ?!大丈夫か?」
「…ムラサキ…さん?」
「あぁ!…良かった…」
ギュッと抱き締める。水で冷たくなった体に自分の体温を移すかのように。
「ムラサキ…さん…私…」
「喋らなくていい…事情は後で聞く」
「…うっ…く…」
すると今度は胸を押さえて苦しみ出した。ナイスもはじめも心配そうに覗き込む。
「ヒカリ…!」
「ムラサキさん…私から…離れて下さい…!私の力じゃない、なにかが…」
「まさか!」
いきなり、地鳴りがしたかと思うと流れ出した水が震え、意志を持ったかのように勢いよく襲ってきた。
「うわっ!?」
「な、何故だっヒカリは頭を被うものなど被ってないぞ」
「多分、力が溢れてるんだよ…暴走したら…殺すほかないぞ…」
ナイスの言葉に背筋が震えた。ヒカリを殺す?そんな事したくない。だが、暴走したヒカリを止めるのに他に方法があるだろうか。
「ぁあああっ!!!!」
ヒカリの咆哮に思考が停止する。回りにある機材や床、壁、水…全てがヒカリの武器であり盾だ。色んな形で俺たちに襲い掛かる。
「くそ…!」
「ヒカリが…助けられない」
襲い来る機材などをどうにか避ける。ヒカリには手が出せない。ナイスもはじめもそうだろう。
「…う…み、みんな…早く…私を…倒して!」
「そんな事出来るわけないだろ!」
「そうだよ!ヒカリは生きて帰る!」
「でも…」
「でもじゃない!俺が最後までヒカリを守ると決めたんだ!」
暴走をどうにか押さえようとヒカリも足掻いているが膨大な力を注ぎ込まれて太刀打ち出来ない。
「みんなを…死なせたく…ない」
涙ながらにヒカリはそう言う。
「俺だって…ヒカリを死なせたくはない!」
次々に来る攻撃を回避するが数が多く攻撃を食らう。一撃一撃が重く、何度も当たる訳にはいかない。