第4章 子供になっても…
「…」
「ふふーん♪ふふんっ」
風呂に入ってからと言うもの俺は視線を自分の足元にだけ集中させていた。何故なら目のやり場に困るからだ。前を見れば鏡があり、ヒカリの姿が見えて落ち着かない。
「…随分、ご機嫌だな」
「なんか、弟が出来たみたいで嬉しいんですよー」
ヒカリの膝の上で大人しく座り、ヒカリによって髪を洗われている。時々、背中に柔らかい感触が伝わるのはきっと気のせいだ。
「泡流しますよー」
「あぁ…」
弟の世話をしている感じに接してくるヒカリはなんだか遣りづらい。
「ムラサキさん、湯槽で溺れないでくださいよ?」
「溺れるかっ!!そんな深い訳じゃあるまいし!」
だが、入ってみたら意外に深く口まで湯が来てしまった。
「私が後ろから抱き抱えますから、大丈夫ですよー」
腕を回され、ギュッと後ろから抱き締められる。柔らかい感触があるのは気のせいだ、気のせいだ…とよくわからない暗示を掛け続ける。シーンと風呂場が静かになる。少し…いや、かなり気になったことを質問してみた。
「ヒカリ」
「はい?」
「困ってたら誰でもこうやって一緒に風呂に入ったりするのか…?」
「…」
直ぐに返答は来なかった。考えているのか…
「しませんよ、そんな事」
「じゃあ、何故俺は」
「女の子ならまだしも男性はムラサキさんだけですよ、一番異性で安心できる人ですから」
「…」
安心できる人…か。そう思ってもらえるだけでもいいことだ。
しばらく浸かってから風呂を出て夕食を二人で食べた。そこそこ楽しい食事を終えて、ヒカリと一緒に布団に潜る。ほぼ、抱き枕状態のまま、就寝した。