第2章 依頼人
「…そ、それは…」
「理由がないならいいだろ」
「…」
何も言い返せず、黙ってしまう。まただ…
ムラサキさんは持ち込まれたケーキを口にした。私も習うようにケーキを頬張る。美味しい筈のケーキが何故か美味しく感じなかった。
ケーキを食べ終えた後はそのまま家に帰った。
********************
「はぁあ…」
「なんですか、そのため息は」
「だってぇ…」
昨日のこともあり、ムラサキさんに会うのが嫌になった。伊吹が衣装を手にしながら、呆れた。
「全く…なんでため息ついてるかは分かりませんが、早く着替えて下さい」
「はーい」
伊吹に手伝ってもらい、紫色のドレスを纏う。
ムラサキさんと同じ名前の色…
別室ではムラサキさんも恐らく着替えているだろう。着替える前に会場を見てきたが、警備がやけに厳しかったように見えた。
「はい、出来ましたよ」
「うん、ありがとう」
髪のセットも終わり、伊吹と部屋を出る。部屋を出るとドアの側に正装したムラサキさんが立っていた。
「お待たせしました」
「行くぞ」
ムラサキさんは私に歩くよう促す。相変わらずの無表情に厳しい目付き。ムラサキさんの後に続き、歩く。
********************
「…でありまして、ここに祝福の言葉を…」
長い長い祝福の言葉を気だるそうに聞きながら拍手をする。その後、私には沢山の人に祝福の言葉をもらい、笑顔でそれに対応した。ムラサキさんもその時ばかりは笑顔を作り、私を手助けしてくれた。
「…疲れた」
「全くだ…」
テラスに二人して寄り掛かる。沢山の人の対応に気疲れしてしまった。水の入ったグラスを傾けて水を飲む。
「なんでこんなに人、集めちゃったのよ…」
何をやるにも盛大にやりたがる我が両親。ただでさえ人脈の多い両親が集める人はやはり、凄い。