第3章 戴冠式の色
それは父からもらった誕生日プレゼントだったということを。
「そうだ……」私は呟いた。「私の目と同じ色だから、似合うと思ったって、父がこれをくれて……」
今見ればこのデザインは、いかにも子どもが好みそうな幼いドレスだった。けれども私にとってはこれがとても大切なな思い出の一つだし、好きな色でもあった。
「じゃあ、このドレスでいいんよね?」
おらふくんは私の顔を覗き込んで訊ねた。
「ちょっと待って。これはさすがに着れないわよ」
このドレスをもらったのは、確か私が六歳だった頃。その日から十年も経っている今、このドレスにもう一度袖を通すのは絶対無理だ。
しかし、おらふくんは少しも慌てていなかった。まぁちょっと見てて。得意げに笑って、彼はそこにあった適当な黒いドレスを手に取った。
おらふくんがもう片方の手にある子ども用ドレスをその黒いドレスへそっと近づけると、それは起きた。
一瞬にして、黒いドレスは子ども用のドレスと同じ色に変わったのだ。
「ほらな、出来たやろ?」
「すごい……」
彼の言葉に、私はそれ以上何も言えなかった。そんな魔法みたいなことがあり得るのだろうか。いや、目の前で本当に、魔法を見たではないか。
「これでええやろか?」
おらふくんは私に、さっきまで黒かった水色のドレスを渡しながら聞いてきた。私はそのドレスを受け取りながら、目眩でふらつきそうになるのをグッと堪えながら何度も頷いた。
「ありがとう、おらふくん」
「ええよええよ」
あははは、と笑ったおらふくん。なんだか元気になれそうなその笑い方に、私もつられて笑いながら、そうだ、褒美を渡さなければと言うと、おらふくんはきょとんとした顔に戻ってこう言った。
「お礼なんてええよ。お姉さんの笑顔が僕の褒美やし」
「え……」
「じゃあ僕もう行かなきゃ」
私が驚く間も与えずにおらふくんはドレスルームを出て行った。
「待って、おらふくん!」
おらふくんを追い掛けてドレスルームを出た時には、あの白い姿はどこにもいなくなっていた。
彼は私に恋心を残して、跡形もなく消えたのだ。
おしまい