第3章 戴冠式の色
私はもう少しで、十七歳になる。
成人になった暁には、父の代わりにこの国の治めていた大臣が側近となり、私が女王として国の頂点に立つ。
何度も何度も足に怪我が出来る程繰り返してきた社交ダンスも、眠くなるような政治の勉強も散々してきたけれど、私はずっと不安だった。父は私に王とはなんたるかを一度も教えずに病気で亡くなった。突然のことで、小さかった私は泣くことしか出来なくて。あの虚無感を、今も忘れることなんてなかった。
出来ることはなんでもしてきたつもりだった。習い事だって、運動だって。これで国民に舐められない女王になれるのかしら。私だってそんなこと気にしたくないのに、時々過ぎるのは「私が女だから」。
父には兄弟もいなく、私にも兄弟がいないから、必然的にこの国の長は私だと決められていた。子どもの頃から決められていたことに私は文句もなかったけど、それでも、侍女たちが次から次へと持ち込んでくる明日の戴冠式用ドレスが、どれも気に入らなかった。
「これでもないわ」
私が何度も取っ換え引っ換えしている内に、侍女たちも疲れたような顔で眉を顰めていたことに気づいてハッとした。
「……もういいわ。自分で探すから」
こう言ってしまうと、侍女たちは私の機嫌を損ねたと思ったのか、ますます申し訳なさそうな顔をした。そんなんじゃないのと今更言ってもどうしようもなかった。だから私は、さっさと自室に引き返すしかなかったのだ。
「私、何してるんだろ」
戴冠式を前に、なんでこんなワガママを言っているんだろう。私ですら自覚はあったのだから、侍女はもっとうんざりしていたんだと思う。
とにかく明日のドレスコードを決めなくてはと部屋の隣にあるドレスルームに入ると、見慣れないものがすぐに視界に飛び込んで息を飲んだ。