第2章 失恋レインボー
それならばと、私もおかしなことを言って追い返してやろうと思ったのだ。
「だったら、虹色に変えてくれる?」
丁度散らかっていたこの部屋は、引っ越したばかりみたいに白が多くなっていた。他にある色はタンスとかの茶色や台所のシンクの色だったし、失恋を忘れられる色があるとするなら、虹色だと思った。
それに、こんな無茶振り、人間には相当出来ないと思ったから。
「ええで」
しかし彼はあまりにもあっさりと承諾をした。何をどうするかまでは聞いてこない。言った私ですら驚いていると間もなく、彼は指を一振、二振り、それから二、三歩動いてはまた指を振った。
するとどうだろう。次から次へと真っ白な壁が赤や青に染まり、天井も床も黄色や緑へと変わったのである。
「次はこっちの色で……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「え」
「こ、ここだけでいいから!」
彼は別の部屋も虹色に変えようとしたので、私は急いで止めた。
自分で言っておいてそれはさすがに怒るんだろうかとも思ったが、彼は最初に会った時と同じくにこりと笑って、分かったと素直に頷いた。
「お姉さんが笑ってくれてよかった。僕もう帰るね」
「え……」
それはどういう意味なのか。理解が追いつくよりも早く、彼は二階の窓を跨ぎ始めたから呼び止めた。
「ちょ、そこは危ないよ?!」
「大丈夫やで。僕、雪だるまやから」
「えっ?」
そう言い捨てるなり、彼はふわりと窓から飛び降りた。
私は急いで窓を覗き込んだが、そこに彼の姿はなく、代わりに雪の結晶が舞い上がっていた。
「虹の雪だるま……」
この奇妙な出会いを元に小説を書くと瞬く間に大人気ノベルとなったのだが、その日以来、その雪だるまとは、出会ってはいない。