第20章 料理を二度と作らないと決めた日(千切・氷織・冴)【前編】
氷織羊
「🌸はだんだん料理上手になってるなぁ。うまいで」
私の料理は壊滅的で決して美味しいと言えるものじゃないのに、羊は「うまいで!」と言って毎日残さず食べてくれた。それが嬉しくて絶対綺麗で美味しい料理を作るんだと意気込んで毎日練習していた。でも羊にとってはそれは苦痛だったのかもしれない。なんで私はそれを早く気付かなかったんだろう。疲れきって帰ってきた羊の言葉でやっとそれが分かった自分を殴りたい。
「…🌸、料理、下手なんやさかい作りなや」
帰ってきた羊は少し汚れた台所と焦げた料理を見て迷惑そうに顔を歪ませてそう言ってきた。この言葉でやっと羊は私のご飯を食べながら我慢していたんだなと気が付いた。
『そうだね、ごめんね!何時も下手で不味いご飯食べさせちゃって。疲れて帰ってきてるのに本当は美味しいご飯食べたいよね』
そう言いながら私は勢いよく料理を全部ゴミ箱に捨てた。すると羊は目を見開かせて私の手を掴んできて
「何してはるんや!?」
と大きな声を出したので私も少し驚いてしまうけど、直ぐに微笑んだ。
『もう作らないから安心して!』
ちゃんと私はその時上手く笑えていたのかな。