第20章 料理を二度と作らないと決めた日(千切・氷織・冴)【前編】
糸師冴
『下手でごめんね…』
「別に不味くねぇから気にするな。俺は🌸の料理好きだ」
焦げていて不格好な料理は決して美味しいと言えないはずなのに冴は「好きだ」と言ってくれて残さずに食べてくれた。それが嬉しくて嬉しくて堪らなくて頑張って作り続けていたが、どうやら冴にはかなり我慢して食べてもらっていたらしい。それに気が付いたのは冴が何時もより疲れて帰ってきた時だった。
『おかえり冴!あとごめんね…また焦げたし不格好な料理出来ちゃった』
と言ってリビングに入ってきた冴に伝えれば、冴は私の火傷して包丁怪我した手を見るなりため息をついた。
「また料理したのかお前」
冷たい声に一瞬ドキッとした。そして冴の口からは鋭い言葉が投げ出された。
「お前、料理下手なんだから作るなよ」
『……え』
「そんな手になるまで作るとか訳分からねぇ」
今まで言われた事ない言葉に心が一気に冷えたような気がしたが、確かにそうかもしれないと思った。
『そう、だね!ごめんね毎日不味いご飯食べさせちゃって!もうやだなぁ私ったら…なんで作っちゃうのかな』そう言いながら私は料理を全部ゴミ箱に捨てた。
「…🌸、違う、今のはっ!」
珍しく冴が焦っていたが私は何も言わずに寝室へ逃げ込んで溢れた涙を止める事もせず泣き続けた。