第2章 不器用な二人
「え、パスワードって……」
「へへ、気づいた? おんりーと僕の誕生日を混ぜたんよ」
「さすがに分かりやす過ぎるんじゃ……」
「そうなん? 忘れそうなんよ」
「足した数とかにしたら?」
「あ〜、それいいね!」
電卓どこやったっけ、とスマホを弄るおらふくんの顔を見て、本当に色んな表情をするな、と考えていると。
「僕の顔になんかついてた?」
ぱっと顔を上げてそう聞いてくるおらふくん。見つめ過ぎただろうか。
「いや、なんでも……」
「あはは、ほんとに?」おらふくんはあっさりスマホから手を離して俺の顔を覗き込んだ。「もっと見てもいいんやで?」
「え」
返事をするよりも早く、おらふくんは俺の首の横に腕を回して抱きついた。積極的な動きに俺はどうしようにも動けず、拳を作り、目を強く閉じ、近づいてくるおらふくんの吐息を感じた。
「んっ……」
触れたのは、案外硬いものだった。
「やっぱ無理強いはあかんよねぇ」
と言いながら、おらふくんは俺の唇を人差し指で触れてからするすると離れていった。
今のは、そういう雰囲気だったよな……?
なぜしなかったのか頭が追いつかないまま、俺は気づけばおらふくんの袖を掴んでいて。そのまま勢いで抱きついてしまった。
あー、このままじゃいつも通り、ハグで終わってしまう。
「おんりー?」
きょとんとしているであろうおらふくんの顔の横で目を瞑りながら、俺は出来るだけ優しく背中を撫でた。
「今日は甘えたなんやねぇ、おんりー」
何も言わなくなった俺を怒ることもしないおらふくんは、優しい声でそっと抱き返してくれた。
俺たちはそうして、抱き合っていた。
その後はおらふくんが、思い出したかのように話題を振ってきて離れる。あれ以上のことはもうしてくれなかったが、一度たりともおらふくんのしてくることが無理強いとは思ってもいなかった。
ただ、言葉にするのが難しくて。
おらふくんの性格上、言葉にしないと伝わらないのは分かってるんだけども。
俺たちはお互いに不器用だ。
俺はそう思いながら、スマホから音楽を流した。
「あ、それ、僕の歌みたやん!」
「さっきのやり返し」
こんな関係も悪くないな、と俺はイタズラっぽく笑ってみせた。