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おらおん

第1章 本当の名前で


 返答に渋っていると、おらふくんは一つも嫌な顔をせずに、じゃあ今日はゲームでも教えてもらおっかな、と言い出してその準備をしに行った。
 こうして俺たちが恋人になれたのは奇跡みたいなものだった。おらふくんの笑った顔も声も仕草もみんな好きだ。それに気づいた自分にも驚いたけれど、それをおらふくんには気づかれないようにしてきたつもりだった。
 それが、まさかおらふくんから告白してくるとは思わなくて。
 かなり考えてから恋人になることを承諾したのだが、今でも俺は不思議でならなかった。
「これ教えてくれん?」
 とゲームの準備をし終えたおらふくんに、俺は一つ訊いてみた。
「ねぇ、おらふくん……俺と一緒にいて楽しい?」
「えっ」
 おらふくんの顔が、分かりやすいくらいはっきりと驚いた。この発言で嫌われても仕方のないことだ、と俺は何度も自分に言い聞かせて、話を続けた。
「いや、俺、おらふくんにワガママばっか言ってるし」
「そうなん?」おらふくんはきょとんとした。「僕、おんりーの全部が好きやで?」
 その上目遣いはマズイ。俯きかけた俺の顔を覗き込んだからって、そうやって見つめないで欲しかった。と同時に、ますます惹かれてしまう心に、俺はもう抗えなくなっていた。
「……俺も、好きだけど?」
「え?」
 その表情をよく見ないまま、俺はおらふくんの背中に腕を回して抱きしめた。こんなことを自分からするのは初めてだ。どれくらい優しく扱ったらいいんだろうか。ガラスくらい? それとも雪の結晶が崩れないくらい?
 ぐるぐると考えながら胸の中の大切を抱きしめ続けていたら、おらふくんが声をあげた。
「お、おんりー、ちょっと一旦離れてくれん?」
 珍しい。おらふくんも恥ずかしがることがあるんだ。俺は少し意地悪をしたくなった。
「名前呼んでくれたら離すよ。本当の名前で」
 それは、とおらふくんが何かごもごもと言い始めたが、俺は構わず抱き続けた。それからおらふくんが、仕方ないなぁ、とよく聞き慣れた関西混じりの言葉を吐き、俺のことを抱き返してきた。ドキリと跳ねた心臓を俺は自覚した。このままどうするんだろう。押し倒されたって構わないんだけど……覚悟した瞬間、おらふくんは耳元で、俺の本名を囁いた。
「────」
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