第11章 心緒
電話で事前に連絡を取って来る時もあれば
今日みたいに帰り道で待っている時もある。
合鍵を渡したままだから
家で待っててもいいですよ?って言ったんだけど赤井さんはやはり律儀で…家主が居ないのに勝手に家に入る訳にはいかないと言っていた。
『今日は何が食べたいですか?』
「何でもいい。お前の作る飯は全部美味いからな。」
『…嬉しいです。』
私の家の冷蔵庫の中は
赤井さんがいつ来てもいいように色んな食材を常備している。
一応元料理人だし、1人分作るのも2人分作るのもたいして変わらないから、私にとっては全然苦じゃない。
アパートに着いて私がご飯を作っている間
赤井さんはいつも私の家に置いてあるタブレットでお仕事。
キッチンからはソファーに座って仕事をしている赤井さんの姿が見えるから、私は料理中に彼が仕事をしている真剣な顔を見るのが好きなんだ。
…だって本当にかっこいいんだもん赤井さん……。
時々顎に手を当てて眉間に皺を寄せながら悩んでいる顔も
組んでいる足を組み替える仕草も全部が絵になる。
最近は赤井さんのことを知れば知るほど…
そして彼の色んな顔を見る度にどんどん好きになっていく。
赤井さんのことが好きって自覚はしているけど
気持ちを伝えようと思ったことは一度もない。
どうせ伝えてもフラれるだけだし、赤井さんはFBI捜査官で
私とは住む世界が違いすぎる。
それにあんなにカッコよくて強くて頭のいい赤井さんが
私なんかに振り向くわけがない。
だから私は…
赤井さんが時々
私の作るご飯を食べに会いにきてくれるだけで幸せなんだ。
これ以上の関係は望んでいない。