第10章 感謝
『思ったよりも時間かかっちゃった…
早く帰らないと…!』
早足でアパートに向かっていると
久しぶりに誰かに見られている視線を感じた。
『っ、うそ……』
なんで赤井さんがいない日に限って!?
足音が徐々に近づいてきてパッと後ろを振り返ったが
そこには誰もいなかった。
ホッと一息ついた後、再び歩き出そうと前方を向くと…
『!?っ、んー!!』
…後ろから手で口を塞がれ、そのまま強い力で引っ張られた。
助けを呼ぼうと思ったけど口は塞がれ声は出せず
周りには誰も見当たらない…
ズルズルと体を引きずられている途中
自分の鞄と買い物袋を落としてしまい、私は路地へと引き込まれた。
そして建物の壁に押し付けられ、
口は手で押さえられたままだったが犯人の顔を見ることはできた。
『っ…!?』
…その男は私と先日食事に行った男性教師だった。
『んーっ!!!』
「若山先生…騒がないで下さいよ。
僕だって…こんなことはしたくないんですが…」
彼の目はとても血走っていて、私をジッと睨みつけており
恐怖で体がビクッと震えた。
「僕は本当に…若山先生のことが好きだったんです。
でもあなたは…僕ではなく別の男を選んだ。
なんで……僕を好きになってくれなかったんですか?」
ひょっとして赤井さんのこと…?
赤井さんとは別にそんな関係じゃないのに…!
説明したくても
口を塞がれているから何も話せないままで…
目の前にいる彼はずっと怒りで震えているようだった。
「僕を選ばなかった罰だ…殺してやる…」
『!?』
彼は私の首に両手を置き、強い力で首を絞め出した。
『っ…や、め……て…』
彼の手を引っ掻いて抵抗するも男の力に勝てるはずはなく
だんだんと頭に血が登ってきてしまった。
…嫌だ……
こんなところで死ぬなんて……
助けて………助けてっ…!!
『あ…かい…さ……』
…助けて…赤井さん…
心の中で赤井さんに助けを求めていると
どこからか足音が聞こえてきた。
「美緒!!」
意識が飛びそうになっていると私の名前を呼ぶ赤井さんの声が聞こえた。
そしてすぐ、私の首から手が離れて、先輩教師は地面に転がっていた。