第9章 恐怖
『…学校行く支度しなきゃ。』
全く仕事に行く気分ではけど
担任を請け負っている以上、気分が悪いからって理由で簡単に休む訳にはいかない。
重い体を無理矢理起き上がらせて
適当に朝ごはんを済ませてから家を出た。
その日もいつも通りに仕事を終えて、外を見るとすでに
だいぶ薄暗くなっている。
赤井さんに【裏口に着いた】という連絡をもらってから
カバンを持ち、まだ残業している先生方に挨拶をし、職員室を出て赤井さんの元へ向かった。
裏口からこっそり出ると
赤井さんはいつもコンクリートの壁に背を預けてタバコを吸っている。
私が出てくるのを確認すると赤井さんは携帯灰皿に吸い殻を入れて
私の方へと体を向ける。
赤井さんのその動作と仕草はいつもかっこよくて
私はそんな彼を見るのが楽しみなんだ。
『今日も来てくれてありがとうございます。』
「…ああ。」
『?どうかしました?』
いつもならすぐに歩き出すはずなのに
今日は何故か私の顔をジッと見つめている赤井さん。
首を傾げていると、赤井さんの右手が私の顔に伸びてきて頬に触れた。
『っ…赤井さん?』
「お前、昨日寝てないだろう。」
『え!?な、なんで…』
「顔を見れば分かる。お前は分かりやすいしな。」
…嘘でしょ……?
ここに来る前にちゃんと化粧直してから来たのに…
赤井さんって凄すぎる…。
「今日は外で晩飯買ってから帰るぞ。」
『大丈夫ですよ。ちゃんと作りますから。』
「だめだ。そんな状態のお前に作らせる訳にはいかない。
…本当は俺が出来ればいいんだが、料理は苦手でな。」
赤井さんは少し困った顔をした後、私の頬から手を離し歩き出した。
…料理苦手なんだ。
『ふふっ。』
また赤井さんのことを一つ知れたことが嬉しくて
少し1人で笑った後、赤井さんの後を追いかけた。